特集

【特集】GIBSON CUSTOM HISTORIC SELECT SPECIAL 2015 Part.1

長年ヴィンテージ・レスポールを細部まで研究してきたギブソン・ヒストリック・プログラム・チームが全ての仕様やパーツの素材、形状、製作方法に至るまで原点に立ち帰ったヴィンテージ・リイシューの集大成“トゥルー・ヒストリック”と“ヒストリック・セレクト”が完成した。
これまでのリイシュー・モデルとはどこがどのように異なるのか? トゥルー・ヒストリックとヒストリック・セレクトとの違いは何か? そしてそのサウンドは? 新たな次元の扉が今開かれた。

取材協力:GIBSON GUITAR CORP.JAPAN

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エレクトリック・ギター史上、"最も完成度の高いソリッド・ギター"と言われる1950年代に生産されたゴールドトップとサンバースト・レスポール。それをリイシューするギブソン・カスタムのプロジェクトが、2015年に歴代のリイシューを大きく凌駕するシリーズへと生まれ変わり、話題となっている。

近年、ギブソン・カスタムが製作するヴィンテージ・リイシュー・レスポール・モデルが、使用材や塗装、ハードウェア、そして製造工程や加工方法に至るまで大きく見直されている。目標となるギターが1956~60年に生産されたレスポールであることに変わりはないが、"トゥルー・ヒストリック"と名づけられた新しいプロジェクトでは、熟練した専属クラフツマンによるチームが組まれ、時間と手間を掛けた製作方法、さらには生産工程までもが一新され、新たな体制の下で年内2,000本のギターが生産される。また、生産量やバリエーションを大きく絞って製作されているトゥルー・ヒストリックに加えて、このシリーズの高いクオリティをベースとして、アメリカ、日本、ヨーロッパ、他各国のギブソン・ディーラーによってオーダーされる"ヒストリック・セレクト・シリーズ"が新たにスタートした。これは、木部、フィニッシュ、搭載ハードウェアなどに様々なバリエーションがオーダーできるトゥルー・ヒストリックの進化系とも言える最新バージョンで、ギブソン・ファン待望のプロジェクトと呼ぶに相応しい内容である。

この特集は、そのヒストリック・セレクトの魅力を紹介する内容だが、それを説明する前に、そのベースとなっている究極のリイシュー、トゥルー・ヒストリックの概要、そして昨年までのリイシュー・モデルとの違いなどを再確認しながら、話しを進めていこう。

―過去と現代をハイブリッド

 トゥルー・ヒストリック(以下TH)とヒストリック・セレクト(以下HS)は、ギブソン・カスタムのヒストリック・プログラム・マネージャーであるエドウィン・ウィルソンによってトータル的な製造システムが構築されている。1950年代に製造されたレスポールをリイシューするにあたり、エドウィンが最も拘ったのはパーツを含めた素材の復活と精度の高い製造工程に集約される。エドウィンは、50年代のクラフツマン達が多くの工程を手作業で行なっていた個体差の大きいギター作りを再現するのではなく、現存する当時のレスポールの中から、特にクオリティ、トーンに優れた個体を選び出し、そのギター固有の特徴をも含めて正確に復刻している。それを行うには、コンピュータ制御によるCNCルーター(木材の切削加工マシン)を積極的に使用する一方で、弾き心地を大きく左右するネック・グリップの仕上げなどには、手作業による手間と時間をかけた加工を行うなど、その工程によって最適な加工方法を組み合わせている。

 50年代のレスポールは、当時のクラフツマン達の優れた技術力に加えて、ある意味ではマジックとも言える微妙な"誤差"や"個体差"を含めた当時の加工方法、その頃に主流であったパーツ素材、そして経年変化といった様々な要素が影響しあうことで現在の姿ができあがった。サンバースト・レスポールが見せる圧倒的な存在感や抜きん出たサウンドは、木材、塗装といったギターを構成する主要部分に加えて、ごく細かな加工形状から、微細なパーツの成分といったものの総合的作用であり、その全てがファクターと言える。

―木材とその加工、塗装

 それでは、THの個々の仕様を確認しながらHSとの違いについて確認していこう。まず最初は木材から。THに使用される木材は、エドウィン自らが木材業者に出向き、チェックしたものを仕入れている。ボディトップに使用されているのは、ヴィンテージと同じアメリカ国内で伐採されたイースタン・メイプル(写真:03)。厚い木材を中間部分でカットし、本を広げるように配置するブックマッチはヴィンテージ・ギターでは少数で、その多くは2倍の長さの木材を2つにカットして、同じ方向に配置するスリップマッチが採用されていた。THでは、全てのトップ材にボディのテンプレートを当てながら、木目とフレイムがバランスよく集まることを念頭において、クォーターソウン(柾目)、リフトソウン(追柾目)、フラット(板目)に木取りされた材を使い分けている。

 ギターの重要な要素となるネック及びボディ・バックのマホガニー材は、現在フィジー産のものが使用されている(写真:02)。これは良質なホンジュラス産マホガニーの入手が難しいことに加えて、フィジー産マホガニーは学術的にもホンジュラス産と同じ種が植林されており、分布高度や気温、降雨量といった自然環境も似ていることから、軽量で音響特性に優れた良質なものを入手している。

 ヴィンテージ・レスポールのボディ・トップに施されたカーブは、機械加工の後に手作業によってサンディングされていたため、ギターごとに多少の個体差が見られる。それに対して、現在ギブソン・カスタムでは、最新の3Dスキャナーを使って多くのヴィンテージ・ギターのトップ・カーブを正確に測定して数値化しており、THではその中から選び抜かれたギターのデータがコンピュータ制御のCNC ルーターにインプットされている(写真:04)。これまでは、CNC ルーターで加工した表面をクラフツマンが電動サンダーでサンディングしていたが、その工程は僅かにその形状に個体差が出る。THでは、一度ルーターで粗切削したボディにバインディングを取り付け、その後に仕上げ用の刃を取り付けたCNC ルーターでもう一度時間を掛けて精密加工するダブル・ルーティング方式が開発された。つまり、トップ形状を微妙に変化させる原因となる手仕上げのサンディング工程を排除したことで、様々なヴィンテージ・ギターのトップ・カーブの特徴をよりリアルに再現できるというわけだ。ちなみに公表はされていないが、THでは有名なロック・ギタリストが使用する1959年製レスポール・モデルの形状が採用されている。

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▲(写真 02)
ネック及びボディ・バックのマホガニー材は、現在フィジー産のものが使用されている。

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▲(写真 03)
ヴィンテージ・レスポールと同様に、美しいアメリカ産イースタン・メイプル・トップを使用。
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▲(写真 04)
コンピュータ制御のCNCルーターを2度使用することで、オリジナルのアーチ形状をリアルに再現。

―ネック、グリップ、接着

 ネック加工もクラフツマンのサンディングによって厚みやグリップが変化しやすい工程である。50年代のギブソンでは、決まったルールに従ってグリップが仕上げられているものばかりではない。THではネックグリップに関しても、正確な仕上がりにするためにCNC ルーターによるダブル・ルーティング加工を行ない、56~58年、59年、60年と順にスリムな形状へと変化していく3種類のグリップを再現している(写真:05)。その一方で、バインディングの外側部分をネック・グリップから続く曲面に、エッジ部分を内側へ丸めるロール・バインディグと呼ばれる作業には、専門のクラフツマンが手作業で手間と時間をかけて行なっている(写真:06)。そして、最終的なフレットの状態はプレックというコンピュータ制御のスキャニング/カッティング・マシンによってチェックされる。

 現在THでは、1種類のボディ・トップ・カーブと3種類のネック・グリップが用意されている。ギブソン・カスタムには、これまで手がけたコレクターズ・チョイスやアーティスト・モデルを含めた多くのデータが保管され、HSではこれらのスペックに基づいた加工が可能となっている(写真:01)。

 ギブソン・カスタムは、2013年にボディとネックの接着をタイトボンド(木工用ボンド)からヴィンテージと同様にハイドグルー(ニカワ)へと変更した。そして2014年からは、ネックジョイントに加えて、フィンガーボードとネックが、そして2015のTHでついにボディのトップとバックの接着に至るまで、その全てがハイドグルーへと切り替えられた(写真:07)。薄く硬いハイドグルーの恩恵として、少なからずギター本体の振動に好影響を与えていると考えられる。

 ハイドグルーに加えて、THに採用されているのが、ヴィンテージ同様にストレートな状態でネック内にセットされヒストリック・トラスロッドである。

 塗装も大きく見直された。ヴィンテージ・ギターに準じた薄い塗膜を実現するために、TH専用のフィニッシュが採用されている。素材はもちろんニトロセルロース・ラッカーだが、より薄く硬い皮膜を作るタイプで、従来の1/2程度の塗膜厚を実現しリアルさを増した。そしてボディ・トップには、幾つものカラーを重ね合わせて表現した美しいサンバースト・フィニッシュが施されている(写真:01)。そしてネックとボディ・バックの象徴的なチェリーレッドは、ヴィンテージと同様にアニリンダイをマホガニーの導管を埋めるためのウッドフィラー(油性目止め)に混ぜあわせたものを、木地にすり込む木地着色塗装が再現されている。THでは、チェリー、ダーク、レモンという3種類のヴィンテージ・バースト、そしてバックは1種類のチェリーが採用されている。ダーティレモン、ブラウン・チェリーバック等の様々なフェイド・バリエーションに関しては、HSを通じて提供される。

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▲(写真 05)
ネックもコンピュータ制御のCNCルーターを使用。新たなデータで年代によるグリップの違いを再現。
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▲(写真 06)
ロールド・バインディグ作業は、専属のベテラン・クラフツマンが丁寧に手作業で行なっている。

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▲(写真 07)
ボディのトップとバックを含め、木材の接着にはヴィンテージ同様にニカワを使用している。

ハードウェア、PU

 ギターに搭載されるハードウェアには、これまでもヴィンテージに基いて作られた専用パーツが数多く開発されてきた。ブラス製サドルとジンクダイキャスト製ブリッジ、アルミニウム・ダイキャスト製テイルピース、ブラス製サムナット・スクリューとブリッジ・スタッド、スティール製テイルピース・スタッド、そして6/6 ナイロン製ナット等はこれまでも高い評価を受けている。THプロジェクトを進める中で、今回更に大量のヴィンテージのオリジナル・パーツを入手し、その形状を3Dスキャニングすると共に、工業試験場で成分分析を行った。それらのデータに基づき、オリジナルと同様の素材と同様の形状で製作された新たなパーツが開発された。それらは、バフィングラインまでリアルに再現したジャーマンシルバー製のピックアップ・カバーをはじめ(写真:08)、ピックアップ・マウントリング(写真:08/09)、セレクター・キャップ(写真:10)とピックガード、スイッチプレート、ジャック及びバック・プレート(写真:11)、そしてその形状や質感を見事に再現したコントロールノブ(写真:12)に至るまで、大半のプラスティック・パーツが一新されている。こうしたパーツ類はギターの外観を左右するばかりではなく、各パーツの微細な特徴が積み重なることで、ヴィンテージ・トーンに少なからず影響をもたらしている。

 ピックアップは、バーストバッカーと比べて、やや出力を抑えると同時に2つのボビンのターン数の差を広げ、アルニコⅢマグネットを組み合わせたカスタムバッカーが採用されている(写真:13)。そのトーンは、立体的な音像、豊かな倍音を備えたヴィンテージ・タイプ。また、ブリッジ・ポジションとネック・ポジションに同様のものを使用することで、ドライブ時を含め各ポジションのキャラクターはより明確なものになった。現在THにマウントされているピックアップは1種類だが、ギブソン・カスタムのコレクターズ・チョイスやアーティスト・モデル等に採用されているピックアップのバリエーションは、HSで対応している。

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▲(写真 08)

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▲(写真 09)
プラスティック・パーツも大幅に変更。ピックアップ・マウントリングなども当時の素材で一新した。
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▲(写真 10)
アンバーカラーが特徴のセレクター・キャップは、ヴィンテージと同じ素材、カタリンで新たに製作。
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▲(写真 11)
ピックガードやスイッチプレート、ジャック・プレートなどもABS素材を採用し、リニューアル。
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▲(写真 12)
ノブの素材と形状が改められたゴールドパウダー仕上げ。パウダーはゴールドトップと同じ。
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▲(写真13)

ヒストリック・セレクトの存在

 バリエーションと製作台数が絞りこまれたTHを補完する意味でも、同時にスタートしたHSは重要な意味を持っている。国内外の正規ギブソン・ディーラーからのオーダーによって製作されるTHをベースとしたHSは、すでに日本のギブソン・ディーラーから多くのオーダーが入っており、2015年夏から順調な滑り出しを見せている。ヴィンテージ・リイシューの細かな仕様や質感にこだわりを持つ日本人にとって、HSはある意味で念願のシリーズとも言える。

 現在日本に入荷しているHSの多くは、ギブソン・ディーラーの担当者がナッシュビルのギブソン・カスタムに出向き、トップ材の選別と木目に応じたフィニッシュをエドウィン・ウィルソンと話しあう中で、各ギターごとに木材の特徴を活かすための最適なフィニッシュやスペックをセレクトしている。昨年までのリイシュー・モデルやアーティスト・モデルに使用された、グリーンレモン、スローアイスティー、ウェスタンデザート、オレンジサンセットといった様々なフェイドカラー、そしてヴィンテージ・ギター写真集などで紹介されている特徴的なバースト・フィニッシュ、といったカラーリングが用意されている。フェイドしたサンバーストに合わせて、バックのチェリーもフェイド・カラーが選択できる。1954~57年スタイルのゴールドトップ・フィニッシュは、メタリック・パウダーの配合が変更され、経年変化によって暗く沈んだ色合いとなり、経時変化で銅成分が酸化した部分は緑青色へと変化する(写真:13)。THに用意されたエイジド仕上げは一種類だが、HSではカラーや仕様に応じてライト・エイジド、ヘヴィ・エイジドのどちらの仕上げにも対応している(写真:15)。また、ネック・グリップやピックアップのセレクトを含めたハードウェア類の自由度も極めて高い。さらに、かつてギブソン社に在籍し、ヒストリック・コレクションの初期モデルの塗装やエイジド加工を行なっていたトム・マーフィが、リクエストに応じて"マーフィー・バースト"と呼ばれるオリジナル・カラー・ペイントとエイジド加工を行うエキサイティングな企画も、日本からのHSのみに用意されるなど、今後も充実したシリーズとして期待される(写真:16)。

 トゥルー・ヒストリックならではのリアルな質感とトーン、そして楽器としての高い完成度を誇り、さらに好みの仕様をセレクトできる自由度をプラスした究極のカスタム・プロジェクト、それが"ヒストリック・セレクト"である。

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▲(写真14)
HSでは様々なサンバーストがオーダーできる。使用されるラッカーも変更され、更に薄くなった。

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▲(写真 15)
THに用意されたエイジド仕上げは一種類だが、HSではヘヴィなエイジド加工などもオーダー可能。

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▲(写真16)
トム・マーフィー自らが塗装するトム・マーフィー・バーストは現在日本だけの人気オプション。
※本記事は月刊『Player』2015年12月号ならびに小冊子『GIBSON HISTORIC SELECT』から転載、加筆修正した記事であり、掲載している内容及び価格などの情報は2015年11月段階の情報です。
※ラインナップの変更に伴い、本稿に登場するHistoric SelectはTrue Historicシリーズに統合されています。(2016年10月現在)

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