インタビュー

今井里歩 / 2ndアルバム『ミチ-sunlight to moonlight-』を語る

Talk About

今井里歩

「根本的に人間としての部分はそんなに変われない だったら歌いたい曲を歌おうって感じになってきた」

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 以前、niconico(ニコニコ動画)の人気コンテンツ「ニコニコ軽音部」の顧問として透明感あふれる歌声を聴かせていた今井里歩。そのテーマソングだった「アルミカン・ドリーム」のクロスオーバーテイストあふれる作風にグッときたポップファンは多いだろう。

Days.jpg 2014年から弾き語りを主体にしたライブ活動が精力化しており、「rainball」「白い月の裏側」の2枚のシングル、2015年にはデビューアルバム『Days』をHarmonious Recordsよりリリースした彼女。『Days』はキャッチーで爽快感あふれる楽曲は勿論のこと、スタンダード風ポップスあり、ボッサナンバーあり、ライブ同様のピアノ弾き語りナンバーも収めるなどソングライターとしての作風の幅広さを感じさせた。

ミチ.jpg さらに2017年、先述の「アルミカン・ドリーム」、シングル「rainball」「白い月の裏側」共々これらの新録も収めた2ndアルバム『ミチ-sunlight to moonlight-』をリリース。ニコニコ軽音部の出演者であった加茂フミヨシのプロデュースで、生バンドサウンドが一層フィーチャーされた仕上がりに。とりわけ「sing a song~あなたへ~」「手をつないで」「白い月の裏側」は、生々しいセッション感と構築性の融合が大きな聴きどころとなっている。タイトル曲や「アルイテユケル」など『Days』からの一層のスケールアップを感じる新境地であり、柔らかで繊細、ときにゴスペルティックな凛とした力強さを感じる彼女特有の歌声の魅力も満載。ファルセットを駆使した歌いっぷり、コーラスワークも大きな聴きどころだ。

 今、ソングライティング、歌唱力、コーラスワークでここまで説得力のあるものを作り上げている女性シンガーソングライターはそうはいない。このインタビューではこれまでの今井里歩の足取りとともに、『Days』『ミチ-sunlight to moonlight-』の制作エピソードについて直撃。ここまで詳細に語った今井里歩のインタビューは他にはないはず。新しい女性ボーカルものの音楽に飢えている人ならまずは彼女の歌声をチェックしていただきたい。

なんか常に歌う意味を考えちゃうんですよ
 
ー里歩さんの音楽活動のスタートは?

今井:曲を書き始めたのは専門学校に入った17、8歳からなんですが、そのときはまったく楽器が弾けなかったんです。ピアノも小さい頃から弾いていたわけではないので、どうしようかと思ってまずエレキピアノを買って...。

ーえっ!? ピアノ習っていたわけじゃないんですか?

今井:弾いたことがなかったんです(笑)。高校時代に軽音楽部に入っていたのでエレキギターは弾いていたんですけど、そのときもボーカルではなくてギター、コーラスでしたし...なんでしょうね。普通の大学生になるつもりだったし音楽もやるつもりはなかったのに、高校の終わりに何故か"私はステージの真ん中で歌いたい人なんだ!"と思ってしまって。もう大学受験も迫っていたのに先生と親を説得して音楽専門学校に変えますと(笑)。ギターで友達と曲を作って遊ぶようなことはしていたけど自分の曲ではなかったし。ギターだとなんか曲が作れなくてピアノを弾くようになるんです。多分バラードが歌いたかったからだと思います。ピアノだとポーンとコードを鳴らしてなんとなく歌えば曲になりそうな気がしたから(笑)。

ーコードボイシングやコード進行が独特なので、てっきりクラシック育ちかジャズピアノとかやってきたタイプの人なのかと思っていました。

今井:違うんですよ。頭の中にイメージはあるので、わりと弾きながら歌いながら作っているんです。音で変なところを探すんです。結構自己流なんです(笑)。

ープロデューサーの加茂フミヨシさんも"今井さんの曲は難しいから"とか言っていて、なんでこんな複雑なことを弾いているんだろうとは思っていましたが。  

今井:私もなんでこんなことにしちゃったんだろうと思いますけど(笑)、なんかその音が良いなっていうのがあるんです。何処を押さえたらそうなるのかしらって探すのが楽しいんですよ。

ーニコニコ軽音部(2011〜12年にかけて放映されていた、ニコニコ動画の"演奏してみた"タグを支援する部活動をテーマにした音楽番組)の顧問をされていましたよね。

今井:音楽専門学校を卒業した後、お世話になっていた事務所さんのご紹介で、お声掛け頂いたんです。動画や生放送についてはそれまでは詳しくなかったのですが、番組を始めるにあたってニコニコ動画(現niconico)の文化があり、ライブをやらなくても画面越しに人がいる状態で歌を聴いてもらえることを知って。それで自分でも"歌ってみた"タグでやってみようかなと。

ーニコニコ軽音部は加茂さん、佐久間正英さん、浅倉大介さん、SATOKO(FUZZY CONTROL)さんらが出演していて、実際にイベントでセッション・マスターズ・バンドとしてセッションしたり演奏するという今振り返るととても豪華な番組でした。里歩さんは進行役をしつつもこのバンドのメンバーとして歌っていて。以前加茂さんに聞いたのですが、故・佐久間さんにアルバム制作をお願いする構想もあったそうですね。

今井:まだ無名な私なので、そこまで行けるように自分で努力していきたいという気持ちを込めて"何か是非ご一緒したいです"と。共演すると"良い歌だよね"っておっしゃってくださって。"やりましょうね"とお声がけは頂いていたんですけど、その矢先に亡くなってしまって...。音楽家でこんなに優しい方がいらっしゃるんだと思ったんです。ライブもいろいろ拝見したりして、音楽ってこういうものなんだというのを教わった気がします。勿論こうやって前向きにやっていく中で、素晴らしい音楽家だった佐久間さんの存在は間違いなく心の支えになっていて。ニコニコ軽音部で一緒に演奏させていただいて本当に楽しかったので。本当に贅沢な企画でしたよね。生徒の皆も一緒の宝になっただろうし、それは私もそうですけど。それこそ私も高校時代はジュディ&マリーをコピーしたりしていましたから。

ーニコニコ軽音部のテーマソングだった「アルミカン・ドリーム」で里歩さんの存在を知った人が多いと思うんです。

今井:「アルミカン・ドリーム」はピアノとDTMで作ったんですけど、番組のテーマソングになるということで、必死になって1コーラス分だけを何曲も作ったうちの一つでした。お題有りで曲を作ったのは初めてで、レコーディングのギリギリまで歌詞を書いている状況でしたね(笑)。あの曲のキラキラ感はアレンジで出たんだと思います。「アルミカン・ドリーム」をアレンジをしてくれた佐藤タケシさんが、1stアルバム『Days』のアレンジでも参加してくださいました。

ー「アルミカン・ドリーム」からすでにメッセージシンガーとしての存在感はありましたよね。

今井:なんか常に歌う意味を考えちゃうんですよ。もともとそんな根明なほうではないので...(苦笑)。

ー「lost fish」「幸せですか」辺りを聴いてうすうす気づいていました(笑)。

今井:最初に曲を作り始めたときは、自分の中のものをただ昇華していきたいという気持ちで作っているものが多かったので。「幸せですか」「例えばそれが」とか結構初期の曲がいっぱい入っているから。「lost fish」は後から作ったんですけど。

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『Days』

2015年にリリースした1stアルバム

◇Harmonious Records
◇HARM-1001
◇2,000円(税抜)

ーそれにしても『Days』の選曲は結構悩んだんじゃないですか? 既発のシングル曲は入っていないし、ライブでお馴染みの曲が網羅されているわけでもないし(笑)。

今井:"一番最初のアルバムとして出すのであれば..."とか凄く悩んで。最近は聴いてくださる人とうまく合わさっていけるものが必要なんだなって、気持ち的なところも変わって来ていると思うんですよ。でも最初はそれがあまりないので結構重い感じに(笑)。

ー冒頭から「lost fish」ですものね...。

今井:「good day」は、「lost fish」のアンサーソングにしたかったんです。1曲目と最後の曲で違うものをと思っていて。「lost fish」みたいなことは思い悩んだときによく考えているようなことなので...結局自分のために作っているのかもしれない(笑)。

ー『Days』はジャケットで抱くイメージと全然ムードが違うんですけど(笑)!!

今井:そうなんですよ...だからちょっとびっくりさせるとは思っていて。多分自分の中でひねている部分があるから。ライブハウスでいろんな方とご一緒していろんな歌を聴いて、その中で私が歌うものがなんなのかを考えたときに、底抜けに明るい曲だけじゃなくてもいいとも思って。そもそも根本的に私がこういう者なので一番最初は私を通そうと。『Days』の選曲案には勿論「アルミカン・ドリーム」も候補に入っていたし、それを期待してくださっている方もいるから散々スタッフとも話し合ったんですけど...。

ーまぁ、でもニコニコ軽音部のイメージだとこのジャケットですよね。

今井:そうなんです! だからイメージ的には私はこうありたいんです! 

ーこうありたいんです...って(笑)。

今井:でも出てくる歌が...(笑)。普段からそこのギャップに悩まされていて大変なんです。ニコニコ軽音部のときは若い元気な子達を引っ張っていく顧問じゃないといけないから結構頑張りました(笑)。勿論「アルミカン・ドリーム」でも1stシングルの「rainball」 も好きな曲だし楽しく歌っているんですけど。

ー『Days』では重めの楽曲とともに、「シャララFM」「小鳥のメロディー」のような底抜けに明るい楽曲もあって。二面性あるのが今井里歩なんだというのが『Days』で皆わかると思うんです。

今井:その二面性をどうしたらいいかわからなかったんですよ。どっちも自分の曲だし好きなんですけど、聴く方にとって相容れないものもあるじゃないですか(笑)? 最近はどっちも自分だから仕方ないなって。根本的に人間としての部分はそんなに変われないや、だったら歌いたい曲を歌おうって感じになってきたんだと思います。そうじゃなかったら、アレンジにあんなにいっぱい注文をつけることはしなかったし。加茂さんも佐藤さんも本当にそれによく応えてくださったなって。

ー「lost fish」のすぐ後の「空になりたい」は重たい空気分を取り返すかのような...。

今井:「lost fish」から「空になりたい」にはすぐ飛ばしているので曲間はほぼないんです。余韻を残さない。聴いている人の心も耳もごちゃごちゃになるかもしれないけれど(笑)。

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もっと自分を好きになりたいってところが強いんだと思う

ー1stアルバム『Days』の制作はいつ頃からスタートしたんですか?

今井:作ろうって話がスタートしたのは結構前なんですが、実際には2015年の春くらいからスタートして夏くらいには出したいねっていうイメージで言ってたんですけど。まず1曲目をどうしようかってときに新曲を入れたいと。「lost fish」を作るのに結構苦労したところがあります。

ーそれにしても「lost fish」でのいきなりのアルバムの幕上げはインパクトがあります。凄く生々しい歌ですし。

今井:もっと音程面では正しく歌えたんですけど、あえて粗めで歌っているんですよね。私としては正しい音程で歌うほうがいいのかなって感覚の方が強かったんですけど、そのとき生で出たものでいいんじゃないかというところでそのまんまにしているんです。レコーディングのときに相当気持ちが高まって生々しいものになっちゃって。今までそういうものを出してきてないのでちょっと怖いんですけど、出しっ放しにしてみてもいいのかなと。

ーロックテイストが濃くて聴き応えがあります。

今井:言葉が聴こえてほしかったんです、この曲では。1曲の中で問題があって解決してあげるっていうのが普通だと思っていたんですけど、どうしようもないときってどうしようもないから。どうしようもないまんま書いてもいいかなと思って。

ーあえて無機質で重厚なビートの中で金属的なエレキピアノが鳴り、加茂さんも物凄く激しいギターを弾いているという...他の曲と全然世界観が違いますよね。

今井:最初に持ってくるには衝撃的すぎるんですけど。ただこういう救いようのないような自分もいるし、「good day」みたいな今日これだけが良いと思えたらOKだよねっていう自分...どっちも自分なので。

ー「lost fish」のああいうサウンドの世界観はもともとイメージにあったんですか。

今井:ピアノで作ったときに水中のイメージがあって。

ー水の音も入っていますものね。

今井:最初水の音が小さかったので、大きくしてくださいって注文つけるくらいに(笑)。最初の仮タイトルは「深海」だったんです。

ー「good day」の"あなたが少しだけ自分を好きになれた そんな日"とか、「lost fish」も"あなたを愛していたい"というフレーズの前に"わたしを愛していたい"が来るであるとか、まずいかに自分を好きになるかっていうテーマ性がありますよね。 

今井:それが全面的に出ちゃうんです(笑)。ネガティブな気持ちだけじゃいけないって、もっと自分を好きになりたいってところが強いんだと思うんです。

ーその一方で「例えばそれが」「good day」はスタンダードなオーケストレーションが頭で鳴っていそうなスケール感があって。 「good day」もそれこそゴスペルのクワイアコーラスが合いそうですものね。

今井:「good day」はずっと弾き語りでやっていることが多かったので、ゆったりゆったり語りかける感じというか。アルバムのエンドロール的にいてもらうためにはあまり重々しく終わるのも嫌だったのであのアレンジになりましたね。

ー「ありがとう」はペダルを踏む音まで生々しく入っているのですが、グランドピアノの弾き語りですか?

今井:「ありがとう」と「幸せですか」はグランドピアノにマイク立てて録っています。「ありがとう」は弾き語りスタイルですけど、「幸せですか」は後でギターを入れてもらったり、コーラスを入れたり。あのコーラスアレンジは自分でやっていますね。試しに入れてみたらこれは良いかもしれないって思ったので(笑)。

ー「幸せですか」はあのピアノリフからできたんですか?

今井:そうですね。"この音の並びはモードっていうんだよ"って言われて"へぇ"とか思っていたんですけど(笑)。

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ー「小鳥のメロディー」も面白い曲ですね。リズムボックスがずっと鳴っていて。

今井:最初はもっとシンプルなボサの感じで可愛いことをやってみたいなって思ったんですけど、なんかピコピコした感じにしたくなって佐藤さんに"ピコピコしたものを入れられますか?"って。

ー加茂さんはリゾネイターギターでスライドプレイもやっているようですが。

今井:そう、"ここいいでしょう?""いいですねー!"みたいなやりとりが(笑)。加茂さんのギターに関してはお任せです。

ーポエトリーリーディングは入れるって決めていたんですか?

今井:ちょっと入れてみたいなって、もうこの字面で書いてあってデモも作っていたんです。それは今とはちょっと違う感じなんですけど。

ーコーラスも聴きどころですが、よく聴くと小鳥のさえずりも入っていて。しかも小鳥の飛び立つ音をシェイカーで表現してみせるという。

今井:とことんやるときは行ってしまうみたいな(笑)。物語的な流れが強い曲ではあるんですけど。「シャララFM」とかもそうなんですが好きなんですよね。誰かと誰かがっていう絵ができていてそこで作っている感じです。

ー「空になりたい」は里歩さんのコーラスも重厚ですね。

今井:"こんなにコーラスをやっても平気かな"とか思っていたんですけど。でもそういうところで何かしら引っかかってもらえたらいいなって。大サビのバックで鳴っているコーラスは、ディレイっぽくコーラスを録るという挑戦をしました。ディレイを使わずにディレイっぽく歌ったのは面白かったですね。

ーしかも加茂さんのギタープレイがフィーチャーされていて、ギターソロも歌心もあって最高です。

今井:加茂さんのギターは凄く豪華な脇役みたいというか。「例えばそれが」なんかはオーケストレーションみたいなギターパートもあるにもかかわらず、それをバーンとは出してなくて。もっと出してもいいんじゃないかと私は思ったんですけど、"いや、これくらいで"って。

ー曲作りの視点はシンガーソングライターのアルバムながら、この1センテンスでこう抑揚をつけてこれぐらいのヴィブラートをかけてとか、凄く細かく練って歌い回しも決めている気がします。ヴォーカルスタイルに関しては完全にヴォーカリストのアルバムっていう。そこも二面性だと思うんです。

今井:歌を教える仕事をやりながらシンガーソングライターっていうのも二面性になっているので。いろんな要素が本当に入り混じっていて、歌の技術としてここをこう聴かせたいっていうのもあれば、言葉の流れとしてこういう表現になってもいいかって思うところもあるので。納得いくまで歌録りするのも大変でしたね。いろんな歌い方ができることは勿論自分の中では良いことなんですけど、"ここはどういう風に歌うものなんだろう?"と考えだすと大変なことになるので。

ー表声とファルセットを自在に行き来する感じも里歩さんならではのヴォーカル・スタイルですよね。どれくらい難しいかは皆歌ってみればわかると思うんですが(笑)。

今井:自分でも自分の歌なのにあんまりさらっとは歌えない(笑)。毎回凄い音とか情念とか、声の方向とか凄く考えて歌っている曲が多いからでしょうね。

ー『Days』はゴージャスな音の印象の楽曲もありつつも、全体的にはとてもすっきりとした音像のアルバムに仕上がりましたね。

今井:歌と言葉が立ってくるようなものを、加茂さんも佐藤さんも凄く意識してやってくれましたね。

表と裏が全然違う感じにしたのは面白かったなって(笑)

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『ミチ-sunlight to moonlight-』

今年2017年にリリースされた2ndアルバム
◇HARMONIOUS RECORDS
◇HARM-1002
◇2,800円(税抜)

ーそして2ndアルバム『ミチ-sunlight to moonlight-』は、遂に「アルミカン・ドリーム」を筆頭にシングル「rainball」「白い月の裏側」も収められるなど、本来こっちが1stアルバムでもおかしくないような、現時点での今井里歩のベスト盤のような内容に仕上がったと思います。

今井:そうですね、やっぱり「アルミカン・ドリーム」が入ったのは大きいと思います。以前からプロデューサーの加茂さんとこの曲を入れるかどうかは話し合っていたんですが。形にはしたいと思っていたんですけど、私の曲で一番いろんなところで聴いていただいている曲なので、せっかくリリースするならニコニコ動画に公開したバージョンの上を行かないと出す意味が無いと思っていた部分があって。あの曲に関しては、佐久間正英さんと一緒にライブで演奏した「あの感じ」をCDの中で出したかった。だから生バンドでのライブ感というのを大事にしたんです。最終的には歌も、曲としてもパワーアップできたと思います。『Days』は生楽器をそこまでフィーチャーしていなかったので、今作はシンセの多重録音を極力控えて、生バンドのサウンド主体で行こうという方向にしたんです。ピアノも全編自分で弾いていて結構しんどかったんですけど、ライブ活動を通じて成長した部分を表現したかったので自分で極力弾きたいなと。生楽器の方が人間味があるというか、血が流れている感じがするというか。それと、講師の仕事を始めてから、ミュージシャンの仲間も増えて、仲間と一緒に演奏しながら創り上げていくという音楽ができるかなと思ったのでやってみようということになりました。レコーディングしたのは12月末くらいでしたね。

ー『Days』を前後してライブの数が増えましたよね。週一ペースでやっていて凄いなと思ったんですけど。

今井:週一でやっていた時期もあって。最近減らしていたんですが、アルバムが出たのでまた増えてきたんですけど(笑)。やっぱりライブしなきゃ駄目だって思ったんです。ライブって会場の雰囲気も、共演する方も違うし、天気とか自分のテンションとかも全然違うじゃないですか? "あ、こういう時はこうなるんだな"っていうのが段々わかってきたりとか、大変なんですけど楽しくやっていますね。勿論、もっといっぱいやっている人はいると思うんですけど。

ー里歩さんの歌声はますますゴスペルティックな魅力が増していると思います。

今井:声の出し方は、ソプラノ歌手の渡邊史さんに師事して、基礎からちゃんと学びました。渡邊さんのアルバム『Du-Du』を加茂さんがプロデュースされていた縁でご紹介頂いたんです。元々声帯が強い方ではないので、喉を変にしないためにも、ちゃんとした発声を身につけようと。

ー「頑張れOle!」とか元気な感じの曲も入っていますけど、頑張って作曲する人ですか(笑)?

今井:前より頑張って書かなくてもできるようになったんですけど(笑)。歌い方が悩むので、"この歌い方でも変じゃないような明るい曲にしないと..."とか考えますね。「頑張れOle!」は年末にレコーディングしたんですけど、その時点では歌詞をちゃんとはめていない状態だったんですよ。ブリッジの部分はレコーディングの時に書いたんです。せっかくレコーディングに関わってくれる人がたくさんいるんだからと思ったので、皆を集めて"頑張れOle!"のところを歌ってもらったのを先に録って、そこから歌詞を書き始めました。

ーウクレレは誰のアイデアだったんですか? 

今井:ベーシストの河野友弥さんは、講師仲間でウクレレユニット「はれのおと」の活動などもやられているので。サウンドを作っている時に"ウクレレも入れたら凄く陽気になるよね"って言ってくださったから、"ウクレレも弾いてくれます?"って。2本ウクレレを持ってきてくれて結構いろいろとテイクを録ってくれました。ウクレレが入ったことで「rainball」との差もうまくつけられたかなって。2曲ともコンガが入っていたし、「頑張れOle!」はウクレレが入ってより陽気になった感じですね。

ーシンガーソングライターの方って、それが良い悪いっていうのではなく、ソングライティングとシンガーで天秤をかけた時、シンガーとしての部分が自己流な人が多いと思うんです。里歩さんの場合、シンガーとしての技術があるので歌が圧倒的に違いますね。 

今井:そうですかね? 感情と身体の動きが全くリンクしないまま声が出ると多分私は納得できないから。それがうまくリンクできるようにっていうのは大事にしていますね。

ーそれは技術ですよね。

今井:そうですね。そこはトレーニングしてきているし、こうすればこういう音になるっていうのもわかった上で歌っているところもあると思いますけど。心地いい音ってあるじゃないですか? 人に聴いていただいている時と自分が出している時と、そこが一個ある方が私は安心して歌える気がするというか。そうすればどこで聴いてもらっても、バラツキがあまり出ずに聴いてもらえるかなとも思っていて。

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ー『ミチ-sunlight to moonlight-』はシングルボーカルの強さだったり、コーラスの生々しさが前面に出ている気がしました。

今井:今回のアルバムは生楽器でやりますよとか、シングルで出ていたものが新録されますよとか、いろんな要素があったんですけど。最終的には歌声が引っ張っていかなくてはいけないので。私の歌録りが一番時間がかかったと思うんですけど、かなり納得いくまで歌い直したというか。一生納得はできないんですけど、その時点でのベストは出したい。『Days』の時は意外と自分の内側を歌った曲が多くて...。

ー今作も多いと思いますが...。

今井:大差ないんですけど(笑)、言葉的に今回"あなた"とかめっちゃ出てくるんです。それをどう表現しよう?って感じで。歌っているのは必死なので...必死感が出ているんだろうな(笑)。前向きなつもりだけど(笑)。

ー前向きだとは思いますけど(笑)。

今井:気持ちが入りすぎちゃうんですよね(笑)。

ー聴き流しちゃう人もいると思うのですが、どこか引っかき傷残すようなところが(笑)。

今井:それが歌声であればいいかなと。そこに引っかかってもらえれば、単純な言葉やメロディでもまた聴いてもらえると思ったり。

ー「rainball」「白い月の裏側」といったシングル曲も収めた理由は?

今井:「rainball」はシングルがありがたくも完売した状態になっていて。最初入れるかどうか迷ったんですけど、シングルを持っているファンの方が"あの頃と比べると歌が上手くなった"と。"他の人に薦めたいけど前のシングルはちょっと..."みたいな。

ーえーっ! 本人に向かってそんな単刀直入なことを言うシビアなファンなんだ。

今井:言われます、言われます。ただ私も歌は上手くなってきたと思うんですよ。

ーそりゃそうかもしれないけれど...。

今井:今の私で歌ってみたらどうなるか?っていうのはやってみてもいいのかなと。だったら「白い月の裏側」も今回ウッドベースを弾いてもらえているので、生楽器でやった方がいいかなって。最初8曲でもいいかなと思ったけど、この2曲を加えて改めてこっちも聴いてみてねって。この2曲が入ったことにより、今現在の全てを出しきった感がありますね(笑)。

ー「白い月の裏側」のピアノトリオアレンジは緊張感があって素晴らしいですね。

今井:今の私のやれることが入っているので...ちょっとピアノがもたったりしているんですけど(笑)。

ーいやいや(笑)、これはバラ録りなんですか?

今井:ピアノはバラで、リズムセクションは一発で録りました。最初は私のピアノを録って、それに合わせてウッドベースとドラムを録ってもらったのでだいぶ苦労をかけまして。レコーディングの時に"揺れるねー"って言われたりして(笑)。

ー良い雰囲気だと思うんですが。そのせいかバンド感も出ているというか。

今井:私の揺らぎに合わせてもらっているので(笑)。ウッドベースがジャズっぽい雰囲気があって、前に比べるとサウンド的に大人チックになりましたね。2月にワンマンをやった時にジャズの演奏にも挑戦してみたんですけど、ギター2本でソロもとってもらってそれが楽しかったんです(笑)。

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ー今回ピアノは里歩さんが全て弾いているんですか?

今井:「rainball」「頑張れOle!」はあえてシンセのピアノにしてますけど、この2曲以外はそうですね。生ピアノはグランドピアノを弾きました。

ーこの楽曲を日差しと月明かりで分けている、アナログ盤だったらA面とB面で分かれているような着想はどこから?

今井:元は2枚にしようって思っていて。作っていく段階で1枚にしましょうってことになったんですけど。1曲ずつアルバムのために書き下ろしていって、「頑張れOle!」がおひさま、「おやすみ」がムーンライトっていうか。結果的には1枚にしてバシッと分けて表と裏が全然違う感じにしたのは面白かったなって(笑)。ライブ活動を続けて来て「前を向く事、照らし照らされ生きている事、歩くこと、一人じゃないこと」というのを知ったんですよね。今回のCDでは、お日様の下の道(sunlight)にも、月夜の下の道(moonlight)にも物語がある事、どちらも私で、あなたである事。それを歌い届けたいと思ったんです。

ージャケットデザインの表裏が白と黒といった部分も決めていたんですか?

今井:日の光と月の光の二面性で行きたいと。写真は2月に撮ったんですが超寒かったですね。早朝の二子玉川を日の出を追いかけて自転車で爆走しました(笑)。カメラマンの木下昂一さんとはFacebookで共通の知人がいて出会ったんですけど、写真を見たら凄く良いと思って。"こういうアルバムの写真を撮りたいんですが..."といきなりお願いして、快諾して頂けたという。この写真無くしてはアルバムは表現しきれなかったと思います。色々提案してもらって、撮りました。

ー「アルイテユケル」は後期ビートルズオマージュも感じる凄まじいアレンジですね。

今井:"ワルツ"って言葉が入っているから3連のリズムを入れようと。入れたらピッタリ来てこのアレンジの方向性だってなり、気づいたらあれよあれよといろんな音が重なっていた感じに(笑)。ビートルズっぽいドラムフィルを入れようってことになって、なんかカオス状態になりました(笑)。ライブで聴いていただく時と音源で聴いていただく時での表現の違いもまた楽しいかなと。2月のライブでこのアレンジで演った時は物凄く楽しすぎて(笑)、感情が入りまくりました。

ーアコースティック曲かと思って聴いていたら2コーラス目から驚きますね。

今井:あの2拍3連のところは頭にも入る予定だったんですが、"違う、最初に入れちゃ駄目だ。これは歌発信だ!"って。もうブレスが入るくらいな感じでやろうと。

ー左チャンネルから聴こえてくるコーラスも凄まじいですね。

今井:いやぁ、あれはキツかったです、あのコーラスは(笑)。

ー凄いコーラスなんですが、最初聴いた時はオルガンの音なのか聴き取れなくて...。

今井:ちょっといる、みたいな(笑)。ここぞとばかりに声楽のレッスンで使っているようなコーラスが入っているという。楽しかったですね。

ー「おやすみ」もコーラスが効果的で際立っていますね。

今井:ハモろうと思えばいくらでもハモれた曲なんですけど、「アルイテユケル」でも結構コーラス入れたしって。

ー「新しいキセツ-ミチ-」「sing a song~あなたへ~」然り歌声は生々しいですよね。

今井:思い出しても身震いするレベルというか、歌録りしていた頃の自分はかなりナーバスだったと思います。あの期間の自分がどんな生活をしていたか思い出せないから(笑)。もっと気楽にやればいいのにとも言われたけど、孤独の作業だから延々やっちゃうんですね。『Days』は制限時間をつけて録ったんですけど、今回はじっくりと時間をかけて自分が納得するまで録ってみようと。でもそれはそれでキツかったです。自分との闘いの時間が続くという...気楽にはできないんですよね(笑)。

ー「今日も明日も」もピアノ1本で歌っているので力強さがありますね。

今井:この曲は友達の結婚祝いで歌うために作ったんです。小学校くらいからの親友で、私としては嬉しく寂しくいろんな気持ちになったんですよ。その彼女に向けた私からの気持ちと、彼女の旦那さんからの彼女へ向けての気持ちみたいなのを混ぜて作った感じです。

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ー「sing a song~あなたへ~」は相当想い入れのある曲なんだろうなっていうのが、歌からも演奏からも伝わってきます。ライブとはまた雰囲気が違いますね。

今井:そうですね。この曲は「白い月の裏側」がトリオっぽく聴かせている中で、どういうアレンジで聴かせようかっていうのは"moonlight"の中では一番悩みましたね。「アルイテユケル」がああいう壮大な感じになったから、「sing a song~あなたへ~」までそうなったらちょっと違うしって。

ー「新しいキセツ-ミチ-」もまた「good day」と並ぶ今井里歩スタンダードの新たな1曲になりました。

今井:アルバムになる前から歌っていて、「good day」に次いで良い曲だって言ってくれる人が多い曲ですね。

ー"夢食いのお化け"が登場する歌詞がユニークですよね。

今井:そこが皆に突っ込まれるんですよね(笑)。ライブでやると "あの曲の夢食いのお化けって..."ってお客さんが声をかけてくれたりするので。"あ、そこに引っかかってくれたか"と。漠然とした幼い頃の恐怖というか、心細さの象徴的なところなんですけど。

ー『ミチ-sunlight to moonlight-』はアレンジは基本的に加茂さんですか?

今井:今回はそうです。2ndバージョンの「アルミカン・ドリーム」は、佐藤タケシさんと加茂さんの共同アレンジです。私のイメージしていた世界観や方向性を実際の音にしていただき感謝しています。

ー最近SHOWROOM"今井里歩のいっつまいるーむ"の配信もされていますね。

今井:ライブハウスに来れない地方の方も喜んでいただいているし、配信を見てCDを買ってくれたり、今度のライブ行こうかなって言ってくださる方もいるので。路上ライブ的な意味合いというか、お喋りしながらですけど弾き語りもやっています。SHOWROOMの公式枠の権利がもらえるイベントがあったんですけど、2位だったんですけど特別推薦枠で公式枠を頂けることになったんです。SHOWROOMをきっかけとして、私のアルバムやライブを聴いてもらえたら嬉しいです。なんかニコニコ動画の時にやっていたものを今改めてやっている感があって、"久しぶりだ、この感じ!"って(笑)。是非一度観てみてください。

Interview & Live Photo by KAZUTAKA KITAMURA

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2017年9月号

定価760円
(本体704円)A4判

2017年8月2日(水)発売

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