シカゴは北米最大の都市。クラシックなものから近代的なものまで、たくさんのビルが建ち並び、海のようにも見えるミシガン湖の湖岸にはヨット・ハーバーもある。フライパンで仕上げる分厚いピザも旨い。シカゴはまた、南部デルタ地帯で生まれたブルースが都市化/電気化されてロックの時代へとつながっていく、そのダイナミックな流れのなかで計り知れないほど大きな役割をはたした街でもある。
冒頭に書いたように、その大都市を出てしばらく南に走ると、バックミラーに映っていたビル群が姿を消した。旧道の左手には、鉄路。フロントガラス越しに見えるのは、地平線までまっすぐに伸びる道。そして、右側ははてしなく広がる、丈の高い、玉蜀黍畑。「はたしなく広がる」というのは文学的表現ではなく、文字どおり、どこまでも、はたしなく広がっている。ほんのちょっと前まで、北米最大の都市にいたというのに。
冒頭に書いたように、その大都市を出てしばらく南に走ると、バックミラーに映っていたビル群が姿を消した。旧道の左手には、鉄路。フロントガラス越しに見えるのは、地平線までまっすぐに伸びる道。そして、右側ははてしなく広がる、丈の高い、玉蜀黍畑。「はたしなく広がる」というのは文学的表現ではなく、文字どおり、どこまでも、はたしなく広がっている。ほんのちょっと前まで、北米最大の都市にいたというのに。
なにか記憶に触れるものがあった。いわゆるデジャヴ=既視感ではない。歌ではない形で誰かが、この光景と、そこから得た感情を表現していたはず。そう、シカゴを出て、ほんの少し南下しただけで目に映るものと空気がまったく変化してしまうこの感じを、ずっと昔、誰かが表現していたはずだ。心にひっかかったまま旅を終え、日本に帰ってから、それがなんだったか思い出した。永井荷風の『あめりか物語』だ。
荷風は、20世紀の初頭、4年ほどをアメリカで過ごしている。最終的には渡仏して文学家としての自分を高めることが目的であり、実際にその目的もはたしているのだが、とにもかくにも、彼は百年以上前に北米大陸を身体で体験していた。経済的に恵まれていたからできたこと、ではある。それでもしかし、その決断力と勇気には最大限の敬意を表したいと思う。
その北米滞在の体験から生まれた『あめりか物語』のなかの一編「酔美人」にこんな一節があった。シカゴ滞在中、セントルイス万博の会場を訪れた時のエピソードをもとに書かれたものだ。「途中の景色といえば、米国大陸の常として、ただもう広漠とした玉蜀黍の畠と、折々は家畜が水を飲んでいる小川の辺りや、百姓家が二、三間立っている岡の上なぞに果樹園らしい樹の茂りが見えるばかり」。そして長時間、汽車に揺られた荷風はミシシッピ河の向こうに広がるセントルイスの街を目にする。
その北米滞在の体験から生まれた『あめりか物語』のなかの一編「酔美人」にこんな一節があった。シカゴ滞在中、セントルイス万博の会場を訪れた時のエピソードをもとに書かれたものだ。「途中の景色といえば、米国大陸の常として、ただもう広漠とした玉蜀黍の畠と、折々は家畜が水を飲んでいる小川の辺りや、百姓家が二、三間立っている岡の上なぞに果樹園らしい樹の茂りが見えるばかり」。そして長時間、汽車に揺られた荷風はミシシッピ河の向こうに広がるセントルイスの街を目にする。
荷風は、戦後、市川市の八幡に暮らし、たまたま僕が高校時代によく通っていた映画館の近くで生涯を終えた。死の前日までほぼ毎日、同じ席に腰を下ろしてカツ丼と清酒と新香を頼んだという和食屋は、今も京成八幡駅の近くで営業をつづけている。当時はなんとなく近寄りがたかったが、大人になってからは何度か足を運んだものだ。
「だからどうした」といわれればそれまでだが、アメリカの歌の心を求めて旅するうち、その道が荷風の道と交錯したことを、僕は嬉しく思った。大げさにいってしまうと、なにかの啓示ということなのだろう。
ロバート・ジョンソンが、最初の正式な録音を行なったのは1936年。翌年には2回目で最後となる録音が行なわれ、彼はそこで29の作品を残した。荷風の代表作「墨東綺譚」は36年に書かれ、翌年に発表された。両者にはなんの関係もないし、深読みするのはよくないことだと思うが、それでも僕はこういう符合に、素直に感動してしまう。
「だからどうした」といわれればそれまでだが、アメリカの歌の心を求めて旅するうち、その道が荷風の道と交錯したことを、僕は嬉しく思った。大げさにいってしまうと、なにかの啓示ということなのだろう。
ロバート・ジョンソンが、最初の正式な録音を行なったのは1936年。翌年には2回目で最後となる録音が行なわれ、彼はそこで29の作品を残した。荷風の代表作「墨東綺譚」は36年に書かれ、翌年に発表された。両者にはなんの関係もないし、深読みするのはよくないことだと思うが、それでも僕はこういう符合に、素直に感動してしまう。


















