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【特集】GIBSON CUSTOM HISTORIC SELECT SPECIAL 2015 Part.2

【特集】GIBSON CUSTOM HISTORIC SELECT SPECIAL 2015 Part.2

エドウィン・ウィルソン / ギブソンカスタム ヒストリック・プログラム・マネージャー

ギブソン・カスタムのトゥルー・ヒストリック、ヒストリック・セレクトのプロジェクトを実現するにあたり、先頭に立って指揮をしているのが、ヒストリック・プログラム・マネージャーを務めるエドウィン・ウィルソンである。彼のヴィンテージ・リイシューに対するあくなき追求心とこだわり、ギター作りに関する幅広い知識と技術があってこそ、この2つのプロジェクトが実現したことは間違いない。ギター作りに込められた彼の強いこだわりを語ってもらった。

■トゥルー・ヒストリックの生産体制とボディ、木材供給・・

 TH(トゥルー・ヒストリック)とそれをベースとしたHS(ヒストリック・セレクト)に関して、いろいろとお話しを訊かせて下さい。現在THの生産は何人で行なっていますか?

 約20人ほどです。彼らは他のギターも製作していますが、特に優れたクラフツマンだけを選んでいます。THやHSにタッチできるのは彼らだけです。

 THに使用されるメイプルの種類は?

gibson_th_1505-73 THのほとんどがイースタン・メイプルです。これは50年代に我々が使用していたのと同じ種類です。イースタンにはハード・メイプルとソフト・メイプルがあり、50年代のギブソンでは両方を使っていました。当時ほとんどのレスポールのトップ材はスリップマッチで、ブックマッチのギターは少ないです。THでは、センター部分にフレイムが集まり、左右のバランスが取れるようなディレクションを慎重に見極めながら、最適な組み合わせを行います。メイプル材は全てアメリカ産です。

 マホガニー材に関してはいかがですか?

gibson_th_1505-12 今のところ入手は安定していて、木取りに関してはクォーターソウン(柾目)か、フラットソウン(板目)か、ということよりも、できるだけ木目と並行にリボン・グレインという模様の入ったものを選んでいます。THやHSをよく見てもらうと分かりますが、実は今年からボディ材とネック材のマホガニーの質感を1本ずつマッチングさせて選んでいます。しかしネックは強度が必要なので、必ずクォーター・ソウンにしています。マホガニーはフィジー産ですが、ホンジュラス("ホンジュラス"は産地の名称で種類ではない)と同じ種で、スウィーテニア・マクロフィリアの学名で呼ばれている純種でとても良質な材です。ホンジュラスや南米のマホガニーは近年良質なものが少ないですが、フィジー産は良質で軽いものが入手できます。

 THはボディが少し薄くなっていませんか?

 実は、ボディにテイパード加工を行うようにしました。トップとバックを接着した後、エンドに向かって0.050インチ(1.27ミリ)ほど薄くなるようにテーパーをかけています。この作業のために新しいツールも導入しました。ヴィンテージはピックアップと弦の距離感、ネック・ピッチ等を考慮して、意図的にテイパード・ボディにしていました。微妙な変化なので気づかない方も多いでしょう。

■ネック形状を一新。美しい塗装の秘密、さらに、徹底してこだわったパーツを製作して搭載

 THのネック形状は何種類ありますか?

 56~58年が同じで、59年はオリジナルの形状、60年はもちろん薄く仕上げています。製品で採用しているのはその3種類ですね。これらのデータも今回新しくなりました。

 ヘッドの形状や厚みも若干変わりましたね。

gibson_th_1505-104 ヘッドベニアの厚みをオリジナルと同様の0.035インチ(0.89ミリ)程度にしました。

 2年前にお話を伺った時に、トラスロッドを新しくしたとおっしゃいましたね。

 ええ、トラスロッドのサイズ、素材、形状を一新しました。以前1958年製のレスポール・スペシャルのフィンガーボードを外す機会があり、メイプルスプラインも外してトラスロッドを調べたので、ロッド本体とそれにともなうパーツ、ネック側の加工の仕方など完全なデータが取れました。

 THはやや弾き心地も変わりましたね。

gibson_th_1505-101(60) フレット・ワイヤーを変更して高さを少しだけ低くしています。

 でも、ヴィンテージよりは高いですね。

 記録によると、当時ギブソンから出荷されたギターのフレットの高さは0.050インチ(約1.27ミリ)です。しかし、ヴィンテージ・ギターは出荷後に何らか手が加わったことで、より低くなっているものが多いです。それをふまえて現在は仕上げを少しだけ低くし、エッジ部分を特に滑らかな形状に仕上げています。ロールバインディング加工とフレット・ドレッシングの作業は、2名の専属スタッフが担当しています。

 塗装皮膜がさらに薄くなったようですね。

gibson_th_1505-19 TH、HS、コレクターズ・チョイス、そしてヴィンテージ・ベースのアーティスト・モデルは、ラッカーの種類を変更しました。やはりニトロセルロース系ですが、以前とは別会社の製品です。ヴィンテージ・ギターのフィニッシュはとても薄いことが知られています。これまで12~15ミルズ(1ミルは1/1000インチ、0.31~0.38ミリ)を狙ってスプレーしていましたが、5ミルズ(約0.13ミリ)に変更しました。ボディ・トップはイエローとサンバーストで着色した後、3回ベースコートを吹いて一旦研ぎ、さらに2回トップコート(クリアラッカー)を吹いています。

 サンバーストの下のイエローコートがとても反射の良い色合いですね。これは特別なカラーですか?

 メイプルの木地によっても見え方が変わりますが、実はイエローステインの上にイエロートナーを乗せていて、それが黄色の発色を高めています。トナーの量は、最終的な仕上げの色を考慮しながら調整しています。

 サンバーストは、多くの色合いがありますが、これは色を重ねながら作るのですか?

 サンバーストは、仕上げる色に合わせて幾つかの色を重ねています。チェリーとブラウンの色味、濃さを変化させたり、僅かにグリーン層を足してグリーンバーストを作ったりしています。仕上げるカラーによって吹き方はまちまちで、イエローの後にあるブラウンを吹いて、チェリーを吹いて、もう一度違うブラウンを吹くこともあります。複数のブラウン、複数のチェリー、それら複数の色を組み合わせています。

 THのチェリー・バックに使用しているアニリンダイについて教えて下さい。

 オイルベースのウッドフィラーには、クリア、ナチュラル、ウォルナットの3タイプあり、これにパウダー状のアニリンダイを混合しながら狙った色合いを作り出しています。一度に塗るのですが、フィラーが入りやすい部分はどうしても色がやや濃くなるので、場所によって色合いが変わってきます。

 ヴィンテージ・レスポールのアニリンダイは、よく滲んでいますね。

 生地着色は染料が木の中に入り込みます。木地、染料、クリアという3層になっていますが、アニリンダイはその一部が上側のクリア層に染み出てくるためです。

 なるほど。ではハードウェアに関して教えて下さい。THの開発にあたり、大量のヴィンテージ・パーツを入手されたそうですね。

gibson_th_1505-107 ええ、旧知のヴィンテージ・ギター・ディーラーに協力してもらい、サンバースト・レスポールに使用されたパーツを幾つも入手しました。それらを研究施設に送り、3Dスキャニングし、構造と成分に関するデータを取った結果、ピックガードやトグル・プレート、ジャック・プレートはABS製であることが分かりました。マウントリングとノブはビュートレイ、トグル・キャップはカタリンという樹脂でした。これらは1920~40年代多用されていたプラスティックの一種で、THではそれらのパーツを同じ素材で新たに作りました。

 では、トグル・キャップの色は、塗装や黄ばんだものではないのですか?

 いやいや、これはカタリンのカラーです。

 今回作られたコントロールノブは極めてリアルで感動的ですね

gibson_th_pod 素材、形状、塗装の全てを新しくしました。ゴールドパウダーは、レスポールのゴールドトップと同じものを使用しています。金属を吹き付けているので、経時変化でグリーンに変化していくでしょう。

ピックアップ・カバーもリアルですね。

 マテリアルは従来のジャーマンシルバーですが、厚みを0.025インチ(0.635mm)へと変更し、形状も新しくしました。

 メッキの下の細かなラインも素晴らしい...。

 バフィングラインもオリジナルを再現しました。そしてメッキは以前より薄いです。

 ホワイトのピックアップ・ボビンは?

 現在はダブル・ブラックのみです。

 アルニコ・マグネットはⅢですね。

 アルニコⅢは、最初はジミー・ペイジのナンバー・ワン・レスポールで使用しました。実は以前オリジナル PAFの古いロング・マグネットを6個ほど研究施設に送って素材分析をしたのですが、Ⅴが1つ、Ⅱが1つ、そして4個がⅢという結果でした。

 昔ギブソンは、アルニコのナンバーを指定しなかったのでしょうか?

 実はエンジニアリングノートにはアルニコⅡと書かれていました。マグネット業者に当時の話を聞いたところ、例えアルニコⅡで指定しても、他の種類が混じることはよくあったようです。それが色々なバリエーションを生んだひとつの原因だと思います。

gibson_th_1505-111 アルニコの種類によるトーンの特徴は?

 Ⅱはダークでブライト感は少なめ、Ⅴはとてもストロングで音圧があり、Ⅲがバランス的にもTHに向いているように思います。ただし、プロジェクトによってはⅤやその他のものも使用しています。

 以前はフロントとリアであまり差をつけない方がバランスが良い、とおっしゃっていましたが、THではいかがですか?

 そのとおりです。実はTHには同じものを2つ使用しています。

 出力はバーストバッカーよりも低め?

 ええ、少し弱めといったところでしょうか。コイルは42ゲージのエナメルで、2つのコイルのターン数の差を大きくしています。グッド・サウンドになったと思いますよ。

 50~60年代のエンジニアリングノート、ブループリント、仕様書、出荷票などは現存するのですか?

 ES、LPスペシャルなど、極わずかしかエンジニアリングノートしか残っていません。ブループリントは残っていませんね。あるのは部分的なもので、ESや58年フライング V、55年LPカスタム、58年LPスペシャルなどの一部だけです。レシートから、元のメーカー、そして当時のオーダーシートを探すので、なかなか大変です。

■ヒストリック・セレクトのシステムについて

 THベースのHSに関して教えて下さい。

gibson_HS0820-1 THの基本コンセプトは、ギブソンが当時工場から出荷していた製品をそのまま再現することです。しかしユーザーの方々の声として、出荷時の状態ではなく自分なりの好みで色や木目、ピックアップなどをリクエストしたいというご要望があることも事実です。そのようなニーズに応えるために、最新のTHのベネフィットを使いながら、カスタムオーダーを受け入れるプログラムとして、2015年にHSプログラムを導入しました。

 HSに用意されている内容を教えて下さい。

 基本的にはディーラーからのオーダーであれば、キルト材や、ブルーやピンクのフィニッシュ、グローバー・チューナー等如何ようにもできます。

 日本からのオーダーはヴィンテージ・モデルのバリエーションといった意味合いが強いですが、アメリカでは?

 やはり、アメリカでも同様のオーダーが多いですね。とても好評ですよ。

 日本からは、トップ材とそれに合わせたフィニッシュのパッケージが多いですね。

 ええ。日本のディーラーの方々に我々の工場まで来ていただき、私が選んだ数ある木材の中から、リクエストしたいオーダーごとに最適な材を選別してもらい、それぞれの材の特徴にベスト・マッチするギターの仕様、カラー、仕上げを決めていただきます。

 マーフィバーストに関して教えて下さい。

 日本のみなさんのリクエストにお応えして、トム・マーフィが自らカラーリングするという、HSだけに用意された特別なオプションです。これは今のところ日本だけです。

 既に生産が終了して入手困難なモデルと同じギターをオーダーすることもできますか?

 HSであればかなり近い仕様までOKです。

 それは凄い! ではピックアップのリクエストは可能なのですね?

 もちろんできます。

 HSは今年スタートした新しいプログラムですが、手応えはいかがですか?

gibson_th_headura はい、既に驚くほど多くのオーダーが寄せられています。HSは完全にTHと同じ木材や製作工程を辿って作られます。違いはシリアル・ナンバーくらいですね(THはモデルとなった年、HSは"HS"から始まる専用のナンバーを使用)。THでは56年、57年、58年、59年、60年のモデル、そしてサンバーストに関しては3種類のフィニッシュ・カラーが用意されています。これらのモデル以外のギターは、全てHSのカテゴリーに入ります。

 最後に、HSに関してユーザーが知っておいた方が良いことがあれば教えて下さい。

 HSプログラムのベネフィットとして、例えばディーラーの方がお客さんとの会話の中で「THは欲しいけど、木目はこういうのが好きだ」とか「この3色じゃない色があれば...」といった意見を聞いた場合、それらを反映した仕様でオーダーできるプログラムです。THのスペックをそのまま流用しながらよりユーザーの方々のお好みに合わせることができるので、ぜひ活用していただきたいですね。

 わくわくするようなプログラムですね。今日は色々詳しく教えていただき、ありがとうございました...。

インタビュー / Jun Sekino

※本記事は月刊『Player』2015年12月号ならびに小冊子『GIBSON HISTORIC SELECT』から転載、加筆修正した記事であり、掲載している内容及び価格などの情報は2015年11月段階の情報です。
※ラインナップの変更に伴い、本稿に登場するHistoric SelectはTrue Historicシリーズに統合されています。(2016年10月現在)

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2017年11月号

定価760円(本体704円)A4判

2017年10月2日(月)発売

お求めは全国の楽器店、書店、またはWebで!

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