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【特集】GIBSON CUSTOM HISTORIC SELECT SPECIAL 2015 Part.3

【特集】GIBSON CUSTOM HISTORIC SELECT SPECIAL 2015 Part.3

 ヒストリック・セレクトは、どのようにしてオーダーされるのだろう。近年日本のギブソン・ディーラーは、より日本のニーズにマッチした製品を製作するために、年に4回ナッシュビルにあるギブソン・カスタムのファクトリーにオーダーツアーを組んでいる。ファクトリーに保管されている全てのボディ材を念入りにチェックし、自分たちで考えたコンセプトのイメージに最適な木材をフィニッシュとのマッチングを考慮しながらひとつひとつ念入りに選んでオーダーしている。定期的に今回は特集のパート3としてツアーに参加しているギブソン・ディーラーのスタッフの方々に集まって頂き、ラウンド・テーブルを行った。ヒストリック・セレクトはどのようにして誕生するのか? ファクトリー・ツアーでは何が行われるのか? ギブソン・ディーラーのスタッフ達は、トゥルー・ヒストリック(以下TH)やヒストリック・セレクト(以下HS)をどう見ているのか? 彼らの本音を語ってもらおう。

[Entry](L to R)西尾唯史(HIRANO MUSIC ROCKIN) / 鈴木健太郎(IKEBE GUITARS STATION) / 和田孝幸(ISHIBASHI YOKOHAMA) / 藤川忠宏(KUROSAWA G-CLUB TOKYO)
[Preside]栗田隆志 (GIBSON GUITAR CORPORATION JAPAN) / 森廣真紀(PLAYER)

すべてのオーダー用木材を見て...

 栗田:日本のギブソン・ディーラーがグループとなり、ナッシュビルのギブソン・カスタム・ファクトリーをツアーしつつオーダーを入れるという流れは、以前の輸入代理店時代からありましたね。

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 鈴木:最初は2001年に、少数のディーラーで行ったんです。その後2003年頃から徐々に複数のディーラーで行くようになったんですよ。でも初めはファクトリーにある完成品を選んでいただけで、その後に材も選べるようになりました。日本は独自の視点でボディ・トップの杢目を選ぶ人が多いからということで、ファクトリーのストック材からトップ材を選ぶというオーダー方法をOKしてくれました。ギブソンはどのギター・ブランドよりもそういう対応が早かったですね。

 栗田:他の国を見ると、本国やヨーロッパのディーラーも単独でファクトリーに来ることはありますが、日本のように年4回、ほとんど決まったメンバーが定期的に来て組織的にオーダーするということはありません。ディーラーさんとしても、かなりの経費と時間がかかりますが、年4回現地に行くメリットは?

 藤川:もちろんメリットはあります。

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 西尾:100万円もする高価なギターでありながら、お店に入荷するものだけをそのままユーザーの皆さんに販売するという受動的な方法では、今の市場にはついていけないです。我々としても、より良い物を選んで買いたいし、ユーザーの皆さんもその中から、さらに選んで買いたいでしょう。ボディの杢目にしても、市場のニーズはどんどん細分化しているので、そういう意見を聞きつつ、自分達が良いと思うギターを確認して仕入れていく。やっぱり自分達が良いと思える製品でなければ、納得して販売できませんからね。

 栗田:カスタム・ディヴィジョン側としても、日本のディーラーの同じメンバーが集まり、共同で企画を考えてオーダーしてくれるというメリットは大きいと思います。それは単に条件面、効率面だけではなく、トム・マーフィーが日本からのオーダーだけに稼働をしてくれていることにも顕われていますね。

 鈴木:トムは以前"フィニッシュはやらない"って言ってましたよね。でも、日本のオーダーだけはやってくれるようになった。まぁ、これも栗田さんのお陰ですね(笑)。

 一堂:(笑)。

 藤川:我々がギブソンに行って提案する。その後しばらくして新しいモデルができたり内容が充実する。それを見て我々も次のアイデアを出す、っていう良い循環ですね。

 鈴木:現在のように年4回ギブソン・カスタムに行くことで、特別なことを頼めるほどにこの企画が力を付けたということですね。最近はできることがどんどん増えている。

 栗田:それはカスタム・ディヴィジョンとしても、皆さんがユーザーの皆さんの嗜好や市場の傾向をしっかりと掴んでいるので、"彼らが言うなら間違いない"という確信があるからです。皆さんはファクトリーにいる3日間で、どれくらい材料を確認されます?

 西尾:トップは2~3,000枚は見てますね。

 栗田:その中から、トム・マーフィー・プロジェクト用、59年モデルの各カラー用、エイジド用、58年用など、すべてのオーダー材をそれぞれ見て選んでいただいていますね。

 西尾:最上級のモデルですので、贅沢な選び方になりますが、本数ありきではなく材料ありきなので、相応しい材がある分しかオーダーできないですね。

 栗田:杢目も時代によって流行がありますね。柾目でストライプのワイド・フレイムが人気の時期もあれば、ヴィンテージ風のウェービーで、角度で見え方が変わる板目のタイプが人気の時期もある。

 鈴木:以前は、一般的に太いフレームや華やかなキルトが人気でしたね。最近はバースト本の影響もあってか、もうちょっとリアルな方が好まれるみたいで...。

 栗田:現地のファクトリーで我々が見る木材、特にメイプルは、リイシュー・モデルを監修しているエドウィンがウッドベンダーに行って目利きして選んでいるので、既に高いクオリティが確保されています。それでも現地で材料を選ぶというのは?

 鈴木:もちろんレスポール用に良い材が用意されていることは分かっています。しかし日本に入ってくるHSには、できる限りユーザーの皆さんの好みにフィットしたものを選びたい。現地に行くことで、より理想的な材を豊富なストックの中から選べるなら行く価値があるし、行く必要がある。

 藤川:お客様から追われている感じもあるし、よりレベルの高いものを作らなければいけない。そのためには毎回ツアーに参加して...。

 西尾:常に最前線でないとダメなんですよ。でもこのツアーに、ディーラーがこれだけ集まれるのは良いことだと思います。意見を出し合えるし、数もまとまるから。

―リクエストどおりのモデルが...

 鈴木:これまでも、ウォッシュド・チェリー、アイスティー、レモンバースト、フェイテッド・タバコ、バーボンバースト、サンライズ・ティーバースト等のレギュラーカラー以外のカラーは、全部ハンドセレクトでオーダーしていました。 そこは改めて市場に伝えた方がいいと思いますね。2015 NAMM ショーで(2015年1月)THって名称がまず大々的に出て、その後にHSが登場したので市場は混同しがちです。実はこのTHとHSの関係は、これまでのヒストリック・コレクションとハンド・セレクトと同じ関係なんですね。より良い物を作るためのリニューアルでしょ。

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 藤川:モデル・イヤーが3月で切り替わったというのも、今回が初めてですね。普通は1月でしょ。1月のNAMMで発表されて4月から作り始めたから、情報が半年間錯綜していたようですね。ようやく今HSが出揃ったから、ここから再び説明する必要がありますね。

 栗田:THとコレクターズ・チョイスの間に位置するのがHSとも言えます。

 藤川:材のハンド・セレクト以外の仕様でもいろいろとオプションが選べますね。

 西尾:ハンド・セレクトはあくまでアップ・グレードのカスタムオーダー・モデルですからね。これでしかできないこともあります。

 藤川HSには色々な可能性がありますね。ほとんどのことができるから。

 森廣:そうであれば、日本の楽器店にユーザーがリクエストすると、もしかしたら次のオーダーではそのリクエストどおりのモデルが作れる可能性がある?

 藤川:リクエストした内容にもよりますが、お客様ごとに許容範囲が違いますからね...。過度に期待されると実現できないこともあるでしょ。例えば「オールマンみたいな仕様で...」って言われてオーダーして、完成品を見たお客様から「もっと似ているかと思った」って言われる可能性もある。まったく同じ杢目や見た目というリクエストは難しいから。

 鈴木:ワン&オンリーのカスタムオーダーとHSとは違いますよね。ただし、ユーザーの皆さんとの会話の内容が、現地に行く我々にはすべて情報なんです。特定の誰かが欲しいモデルを作るのではなく、複数の方々のお話を訊き、それをうまくフィードバックして製品にする。そしてある日気づいたら、自分が以前欲しいと言っていたモデルが製品化されている、という方が良いのかも知れない。

―意見があれば実現できるかも...

《Historic Select 1959 Les Paul Grover Tuner,Murphy Burst Finish,Murphy Aged》

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 栗田:それでは、皆さんがオーダーされたHSが届いていますので、それらを見ながらお話しを進めましょう。まずはマーフィー・バースト・エイジドからいきましょうか。仕様、カラー、エイジングを指定して、さらにプロジェクトにマッチする杢目の材を選んだモデルです。

 鈴木:サンプルで吹いた時の色とまったく同じですね。かっこいいね...。

 栗田:そういったきめ細かい作業を高いレベルで実現できるのがHSです。

 西尾:杢目、カラー、パーツなどの細かい仕様の指定はTHではできないからね。

 栗田:これは典型的なパターンですね。基本スペックはTHの59エイジドと一緒ですが、そこにオプションとしてグローバー・チューナーとリバースマウント・ネック・ピックアップ、フィニッシュをトム・マーフィーに依頼したマーフィー・レモンバースト。バックカラーもトップにマッチするようにやや落ち着きのあるチェリーです。

《Historic Select 1958 Les Paul,Grover Tuner,knobs are Push/Pull,New Orange Sunset Fade Finish,Vintage Gloss》

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 栗田:次は和田さんがメインでオーダーした有名アーティスト風のモデルです。これはもうHSのスタンダード・アイテムとも言えますね。

 和田:多くのレスポール弾きが憧れるギタリストの仕様です。トーン・コントロールにプッシュ/プルのコイルタップ・スイッチが付いていて、薄めのネックも特徴的ですね。カラーも特殊で、オレンジサンセット・フェイド。そしてトレードマークのグローバー・チューナー。どれもHSでなければできない。

 鈴木:以前あったアーティスト・モデルの仕様を、THの仕様で欲しい方も結構おられますからね。その要望にお応えする上でも、HSはしっかりフォローしてくれますね。

 藤川:昔から、レスポールを買った人が"誰々みたいに改造したい"って考えるのは、永遠のテーマでしょ。でも、HSなら改造ではなく最初から作れちゃう。

《Historic Select 1959 Les Paul,Southern Fade Finish,Vintage Gloss》

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 栗田:これは59年タイプですね。

 藤川:正にサザンロックのアイコン風でしょ。

 西尾:杢目とカラーをうまくマッチングさせていますね。

 栗田:このタイプの杢目って、今回はどれくらいありました?

 西尾:ホントはみんなで6本のオーダーがあったんですけど、それに相応しいトップ材が5本分しかなかったので、自分は辞退したんです(笑)。

 栗田:それくらい希少な材ですね。

 鈴木:これも栗田さんのお陰で...(笑)。HSでこういうことができるのは大きいですよ。

 藤川:この杢目をずっと待ってるお客様もおられますから。

 栗田:HSなら、各仕様を細かく突き詰めたオーダーができます。

 鈴木:経年変化で赤がフェイドしたヴィンテージがたくさんあるから、ユーザーの皆さんが思い描くのもそれぞれですね。赤過ぎてもダメ、黄色過ぎてもダメ、やはり好みの杢目も欲しい...、ってなったらHSしかない。

 藤川:ギブソン・カスタムに行ってから、こういう材を見つけたからそれを集めてHSで作ろうか、っていうアドリブもできるし。以前よりも自由度が増しているからね。

 西尾:その分自分たちの仕事も増えましたけどね。バックの色から、細かな仕様まで。

 栗田:トップとバックとの色のマッチングを指定できるのもHSならではの醍醐味ですね。

 鈴木:レモンバーストの場合は、裏の赤がフェイドしている方が良いっていう人が多いですが、今のTHは結構赤いじゃない。以前ウォルナット・バックをオーダーしたら、お客様からもそっちの方が良いという意見もありました。そういう市場からの声を聞くことが大事なんですよね。

 西尾:欲しいものが皆さんバラバラなので、とてもTHだけでは間に合わない。

《Historic Select 1959 Les Paul,B.O.T.B. Book Cover Burst Finish、Vintage Gloss》

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 栗田:これは通称BOTB(『ザ・ビューティー・オブ・ザ・バースト』)タイプの有名なカラーですね。トップに赤みが残っているので、それに合わせてバックも赤みを増しています。

 西尾:やはり材を選んだものは仕上がりがかっこいいね。こういう中間色はデフォルトだとできないから。こういう中間的なカラーのものが欲しいという方は多いですね。

 栗田:和田さんもレスポールのユーザーでありオーナーですが、"こういうのが欲しい"っていう具体的なイメージはありました?

 和田:僕は元々奥田民生に憧れてまして、中学生の頃から奥田さんのようなレスポールをずっと欲しかったんです。だから、商品化されたときはすぐに買いましたよ(笑)。

 栗田:やはり皆さん具体的なイメージがある。

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 和田:どちらかというと、僕はあまり杢目が入っていない方が好きなので。プレーン・トップに近いくらいの59が望ましいですね。
 藤川:レスポールって、色や杢目も含めバリエーションがあることが前提でしょ? そのバリエーションを皆さん楽しんでいる。

 鈴木:お客様からの声がなければ製品企画はできないので、ユーザーさんからの意見が最も重要です。"こういうレスポールがあったらな..."というというご意見があれば、もしかしたらそれが具現化するかもしれない。我々もそうしたいから頑張ってるわけです。お客さまの意見を訊かせてていただくことがすべてですね。あり得ないと思えるものでも、実現できるかもしれません。

 西尾:どんなにマニアックな仕様でも、実現する可能性があるのがHSですね。

 藤川:このモデルができた時、僕もあるお客さんが喜ぶ顔が思い浮かびました(笑)。

―スペックシートには書かれない...

 森廣:ディーラーさんから見て、THやHSの完成度はいかがですか?

 鈴木:正直、毎回思うのですが、もうこれ以上ないなって思っていても、良い意味でそれを裏切ってくれますね。今回も細かいことを言えばまだありますけど、それ以上によくやっていただけてます。今のCNC ルーターの精度の高さと、昔の個体差があるハンドメイドでどちらが良いのかっていうのは、なかなか難しいところだと思いますけど、THやHSはそれらを組み合わせてひとつの形を提示しているし、結果的にすごく完成度の高い製品になっている。見えないところにもかなり力が入っていますし。

 藤川:我々でも言われないと気がつかない箇所があったくらい。このプロジェクトは細かい部分まできちんとやっていますね。昔の職人さんの細かいタッチをできる限り活かそうとしていたり、ホントに良くできている。

 栗田:スペックシートには出ないけど、フィーリングとして明らかに違いが感じられます。

 藤川:ボディのカーブやネックも、これまでのハンド・サンディングをやめて、THからCNC ルーターで正確に再現していますね。

 西尾:でも、機械化されたっていうと"ハンドメイドじゃないのか?"って捉える人もいるでしょう。

 藤川:ボディのアーチ形状とネックは確かにCNC ルーターで加工していますが、それ以外の部分は逆に手作業が増えていますよね。

 鈴木:塗装が薄くなって繊細さが求められるので磨きは手作業になったし、本当にスペックに出てこない部分は、よりハンドメイドになっている。楽器って、ほんのちょっと違うだけで印象がかなり変わるから。THやHSは、"こうでなければならない"という部分はちゃんと残しながら、しっかりきれいに見せてくれるっていうのは嬉しいですね。まあ、我々のように製品を仕入れる立場と、それを企画して作る立場とでは、桁違いに大変さが違う。考える、作る、製品にする人達の努力には頭が下がりますよ。それに、どこまでやるべきかを考えると切りがないし...。

 栗田:スペックシートに書ける部分を売りにすることは比較的やり易いですよ。そうではなくて、スペックシートには書かれていないけど、実はすごく色々なところが変わっている。そういう細かい変更点が集まってひとつになったときに、フィーリングとして"良いな..."って感じられると思うんです。その積み重ねの集大成が、今のTHでありHSです。では最後になりますが、このプロジェクトに関して、私とエドウィンからみなさんにご提案があります。我々がウッドベンダーと呼んでいる所がありますが、今度はその材料が保管されている木材業者のある場所までツアーに組み込んではいかがでしょう

 西尾:いや~、行ってみたいですが、現在でも一週間の出張を組んで、前半メンフィス・ファクトリー、残りの3日間でギブソン・カスタムでしょ...。今やってることだけでも手一杯なのに、そこにウッドベンダーを組み込んだらもう...(笑)。

 栗田:毎回じゃなくても良いんです。だた、経験として年に1回でも行く価値はあるんじゃないでしょうか? 材を切り出している場所まで行き、そこで作業する人達を知ることでしか手に入らない材もあるでしょうから。たとえ少しでも、今回より次回をより良くするという気概を持ち続けたいですしね。

Guitar Photo / Tomuji Otani
Interview Photo / GAKKI ソムリエ
この記事は2015年10月に行われた座談会の内容です。

※本記事は月刊『Player』2015年12月号ならびに小冊子『GIBSON HISTORIC SELECT』から転載、加筆修正した記事であり、掲載している内容及び価格などの情報は2015年11月段階の情報です。

※ラインナップの変更に伴い、本稿に登場するHistoric SelectはTrue Historicシリーズに統合されています。(2016年10月現在)

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2017年12月号

定価760円(本体704円)A4判

2017年11月2日(木)発売

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