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ボデイがない?光る? エンジニアが考案した驚きのギター

エンジニアで、ビジネス書の作家、イベントプロデューサーなど様々な顔を持つ柴田英寿氏が考案したギターは、音響を司るボティがない(!!)という全くの新発想。柴田氏の自身へのインタビュー、演奏を含め奇想天外な試作品の数々を取材した。

ギターを紹介する前に、柴田英寿という人物のプロフィールなどを知った上でないとギターへの理解もしづらいので、インタビューからご覧いただきたい。柴田氏はベストセラー本の著者であり、落合陽一など新世代のクリエーターたち、省庁のトップクラスとも交流が深い。今回の記事はそんなマルチな才能の人物が考えた新世代のギターの試作ストーリーだ。

■ギターを作るには膨大な時間がかかるわけですから、その時間、練習した方が良いに決まってるんですけど(笑)。

柴田さんが音楽や楽器に目覚めたのは、いつ頃でしたか?

中学とか、高校の時に洋楽を聴いてカッコイイなと思ったのが最初でした。その頃は自分がギター弾けるとは思っていなくて、ギターを買ったのは大学に入学してからでした。その時に買ったのがヤマハのレスポール・タイプのギターでした。 大学に入ってというのは、案外遅いですね。 高校の頃は演劇をやってたんですよ。大学に入ってからも演劇のステージの小道具としてギターを弾いたりしていました。

演劇とはどんな演劇なんですか?

小劇場です(笑)。毎回赤字で、こりゃもうダメだなって思って。でも、舞台照明用のプログラムを作ってた事が元でコンピュータのエンジニアになるきっかけでしたね。

ギターは最初からエレクトリックだったんですか?

そりゃエレキの方がかっこよかったですし。エドワード・ヴァン・ヘイレンとかがかっこいいなあ、って。でも、毎日ギターを改造していく生活に・・・

え?弾くのではなくギターを改造する方に?

そうなんですよ。もっと上手くなりたいなと思って、改造したんです。今思うと改造する時間で練習した方がいいと思うんですけど!!(爆笑)。今でもギターを作るには膨大な時間がかかるわけですから、その時間、練習した方が良いに決まってるんですけど(笑)。ギターを買う人って日本で1千万人ぐらいいると思うんですね。でも、ギターを作ってる人は、その中の1万人に一人ぐらいじゃないですか?さらに5本以上作ってるような人はさらに少ないと思いますよ(笑)。

柴田さんはこれまで7本のギターを試作しているそうですが、今のような形のギターを作るようになったきっかけは?

元々は手持ちのギターを改造する程度だったのですが、2013年頃に3Dプリンターが登場しますよね。それを見た時に「これでギターを作るしかないな!」と思ったんです。その頃はPRSのような形のギターを3Dプリンターで作ろうとしたんですよ。でも、3Dプリンターだけでギターを作ると、まずお金がかかりすぎてしまうのと樹脂素材なので剛性が足りなくなってしまうので、金属素材のフレームを使う方法にシフトしていきました。

柴田さんはバンド活動はしてないのですか?

大学の頃はやってなかったです。むしろ、ギターを作るようになってからですよ。「柴田さん、このギターが面白いから今度弾いてくださいよ」とか頼まれるようになって、みんなの前で演るようになりました。

ムービーも拝見しましたが、歌謡曲とかをやってますよね。

大学の頃はランディ・ローズとかにも憧れて、一人で弾いていたんですけどね。その20年後ぐらいですかね。みんなに頼まれてJポップや歌謡曲をやるようになりました。これは聴いてくれる人がいるので、楽しくやってます。

■会社に在籍しながら、毎週水曜日の午後に東大で授業をしていました。

今回のインタビューのポイントは、「こんな人が作ったギター」がテーマでもあるので、柴田さんのプロフィールを教えていただけますか?

音楽とは全然関係ない仕事をしていました。日立製作所のコンピュータ部門で、工場のソフトウェアを設計するような仕事です。

会社に在籍しながら、毎週水曜日の午後に東大で授業をしていました。

柴田さんはビジネス書のベストセラーを出していますよね。

本は何冊も書いているんですが『お先に失礼する技術』という本は特に売れましたね。本を書くきっかけとしては今から20年ぐらい前に特許と経営戦略を結びつける知財立国というのが流行った時期があるんです。僕は留学経験があったので、それに詳しかったんです。なので、それ(知財立国の知識)を日本に持ってきたんです。それで2冊も本を書きました。そうしたら東京大学から"学生が技術で起業するような授業をやってくれないか?"と声が掛かったんです。それで会社に在籍しながら、毎週水曜日の午後に東大で授業をしていました。東大での任期は終わってからも、その頃の学生たちや今の学生たちとの接する機会は続いています。会社を5時に終わって、夜、学生に講義をするスタイルは今の"副業"とか"ダブルワーク"を先取りしていますね。

一流企業に勤めながら、東大で授業、っていうのはすごいなあ・・

今、"朝活"ってあるじゃないですか? 朝集まって、みんなで話をして、その後会社に行く、って。それも僕は20年ぐらい前からやってるんです。

朝活ってどんなメリットがあるんですか?

まず、色んな人が来るってのがありますね。それこそカメラマンが来たり、歌手の方が来たり、ビジネスと関係ない人が来ますよ。もちろんエンジニアとか秘書の方とかも。"ああ、こういう人生もあるんだ"って考えや人脈が広がりますね。

でも、集まるなら、夜だっていいじゃないですか?それをなぜ朝に?

夜だと(仕事があるので)みんな遅刻してくるし、酒飲んでお金がかかる(笑)。でも、朝は来るのがつらい分、自分を律して来るし、9時にはみんな仕事があるから時間になると帰る。しかも、飲むのはコーヒーだからお金もかからない。最高に合理的ですよ。

朝だから頭の回転も良いですよね。

そうそう。20年間もやってると、毎週水曜日の朝に僕がこの喫茶店にいるのをみんなが知っているので、卒業生たちも僕に会いたい時は朝活の朝食会にやってきます。

柴田さんの人脈は特に広いですよね。特に柴田さんが作ったMarkⅦは今は落合陽一さんがお持ちとのことですが、落合さんとはどのような関係ですか?

僕の教え子の東大の授業や朝活の仲間の中には省庁に入った者の人もいるんです。そんな中で、その省庁の幹部達ともカラオケ仲間とかになりまして(笑)。

え?カラオケ・・・ですか?

彼らとは20年ぐらいカラオケをしてますが、僕がギターを作るようになってからのこの5年ぐらいは僕が弾いて歌う「生カラオケ」になった(笑)。それでその省庁の幹部と「『サウス・バイ・サウスウエスト』(SXSW)という音楽や映画とビジネスを一緒にやるイベントがウケてるから、一緒に行ってみようよ」という話になりました。僕も何年かSXSWに絡んでいるんですが、落合君は2019年3月のSXSWでの日本館のアート・ディレクションとして絡んだという関係ですね。

柴田さんがSNSに上げた動画でバズった動画がありましたよね。LEDのギターを弾いている動画です。あの動画はSXSWで撮ったものですか?

2018年の夏だったかな?アメリカのネバダ州での動画です。ギターにLEDを付けるようになった理由も砂漠なんです。砂漠の夜のイベントというのは暗いので、みんな体とかに電飾とかを付けてくるのですよ。僕はギターを持って行くつもりだったので、ギターにも電飾を付けたんです。そしたら現地ではギターに電飾を付けてくるような人はいなくて(笑)。真っ暗な砂漠の中で僕がたった一人でギターを弾いていたという(爆笑)。

現地の人たちのリアクションは?

砂漠で衣装とギターがLEDで光ってるなんてのは他に居ませんから、ウケましたね。しかも、乾電池で動くアンプを肩から下げて(笑)。それを街なかで再現したのが2019年3月のSXSWでした。今度は通行人の人とかが喜んでくれました(笑)。


いよいよ、そんな柴田氏が作ったギターを解説しよう。これまで製作されたギターは歴代で7本だが、後のギター製作のために流用されたものや最新のMark7のように人手に渡ったものもある。そのため、今回は4本+αの掲載となる。それぞれが柴田氏のアイデアを具現化する試作品で、全て完成品ではない。また、変遷を説明するためにも、部品の状態となっているものも取材した。




◆Mark1 / 現在はパーツだけの姿だが、後のエッセンスが詰まっている。

hikaru_900-116.jpg▲ネックなどの主要パーツが取り外された後のMark.1。

2013年頃に3Dプリンターのブームがあり、その頃に製作された。現在では後のギターにパーツが流用されたため、樹脂部分だけが残っている。

これを見るとMark1には柴田氏が製作しているギターに共通するアイデア

  • ・音響的な役割を果たすボディがない
  • ・ピックアップが交換できる
  • ・マルチ・エフェクター搭載 など

のエッセンスが盛り込まれている。

Mark1の「ボディ」は3Dプリンターで出力した樹脂製。ボディと言っても音響的な役割がなく、アッセンブリーを取り付けるための「パーツ」に過ぎない。また、ピックアップも特殊な取り付け方法をしている。というのもエスカッション風の箱型のユニットにピックアップを収納し、簡単にピックアップをユニットごと交換できるようになっている。加えて、そのユニットは「はめ込み式接点」なのも特徴的だ。 また、チューンOマティックのテイルピース後方にマルチ・エフェクターを取り付けるため、ブリッジとテイルピースの間隔が極端に短い。

hikaru_900-117.jpg▲ピックアップはユニットごと6弦側にスライドさせられる。ネック・ジョイント部まで樹脂で出力され、ボルトでネックを固定しようとしたが、強度が足りなかったようだ。

hikaru_900-118.jpg▲フロント・ピックアップをひっくり返して撮影した。ボディとユニットの接点ははめ込み式にしている。が、ピックアップの固定部品として電気接点を使うこと自体,やや無理がある。

◆Mark2 / ボディが完全になく金属のフレームに各種パーツを取り付けているMark2

hikaru_900-119.jpg▲Mark2は、音響的な意味でのボディが全くない最初のギター。

3Dプリンターは製作コストが高いのが難点だ。それと樹脂パーツを最小限に抑える意味もあって、初めて金属フレームを採用したのがMark2だ。その結果、3Dプリンターによる樹脂パーツはピックアップ下の台座程度となっている。代わりにホームセンターなどで入手した金属フレームを組み合わせ、そのフレームに各種のパーツをねじ止めしている。

ピックアップはディマジオ、他のギターから転用したコンコルド・タイプのヘッドのネックなど。ブリッジは一体型を採用。ブリッジ後方にボリュームとトーンを配置。そして、ピックアップの間にピックアップ・セレクターを配置、マルチ・エフェクターをネック横に取り付けるなどは後のギターにも受け継がれることとなる要素だ。 また、Mark2もピックアップを容易に交換できる仕組みがあり、ピックアップを台座ごと6弦側にスライドさせ交換できる。なお、ピックアップの接点はプラグ式に変更された。

hikaru_900-121.jpg▲パーツを取り付けるためだけならば、金属のフレームでも構わない。そういう発想で、ホームセンターなどで入手した金属フレームを組み合わせている。

hikaru_900-122.jpg▲ブリッジは一体化になり、その台座部分だけが3Dプリンターで出力されたパーツ。

hikaru_900-125.jpg▲ピックアップは6弦側にスライドさせて交換、接点はプラグ式となる。他にもセレクターを2つのピックアップの間に、マルチエフェクターをネックのサイドに配置するなどの要素はこのギターが最初だ。

◆Mark3 / 金属フレームをシンプルにしたMark2のリファイン・モデル

hikaru_900-126.jpg▲Mark2をブラッシュアップさせたのがMark3

Mark2と見比べるとパーツ数が減り、シンプルな印象がある。シャーベルのギターについていたネックとアイバニーズのピックアップなどヘビーメタル的なイメージでアレンジされている。 弦が12弦ギター用のブリッジに6コースだけ弦が張られているのも特徴のひとつ。樹脂はブリッジ下の台座のパーツに使われている。

柴田氏のギターではボリュームとトーンの配置が独特で、一般的なギターではネック側がボリュームだが、手が届きやすいという意味でボリュームを外周側に配置している。柴田氏によれば「ネックの音がする」とのこと。柴田氏のギターはボディがないので、木材の音響的な効果を再認識した1本でもある。

hikaru_900-127.jpg▲ボディ正面から見たMark3。パーツが整理されている。また、ブリッジは12弦ギターについていたものを使い、6コースだけ弦が張られている。

hikaru_900-131.jpg▲ウラは青いケーブルが目立つが、構造面では簡略化。体に当たる部分にはクッションを使っている。

◆Mark.4 / 派手に光り、音も良い、柴田氏のフェイバリットギター

hikaru_900-101.jpg▲設計を大胆に見直し、タブレットホルダーを装備。完成後にLEDを追加したため、ルックスも異様な雰囲気を醸し出すMark4

Mark3でネックの重要性を再認識した柴田氏だが、「一説によればヘッドレスの方が音がよい」という意見を聞き、実際に試したいと思い、既存のギターのネックのヘッドを自身の手で切断(!!)し、ボディエンド側にヘッドを取り付けた。

他にも全体の設計見直しが図られている。 まずピックアップはStrandbergから取られたピックアップを搭載.フロントPUが逆さまだが(Mark5も同様に逆向きなので)柴田氏にはこれで正解のようだ。PUの交換機能は金属製スライダーと樹脂製の台座を新たに設計。PUとボディの接合もプラグイン方式だ。

パフォーマンスを考慮し、タブレットホルダーをギターに装備している。このタブレットを使いバックトラックをPAなどにブルートゥース接続する他、コード進行の確認などにも重宝している。

そして、Mark4で初めてLEDをギターに搭載した。インタビューにあるようにMark4のLEDはギターの完成後に後付けされたもので、高輝度のLEDを光らせるために専用の電池を(ボディエンド側に移設された)ヘッドの裏に配置し、電源を供給。テープ状の高輝度LEDを点灯させている。LEDは弾いている音に反応して、光の色や強弱が変化する。 LEDを後付けしたため、LEDとその配線が煩雑で、さらにタブレットホルダーなどもあるため、外観が大げさとなっているが、メカニカルさや高輝度のLED、さらには高級なピックアップを搭載したことでの音の良さで柴田氏のパフォーマンスには欠かせないギターと言えるようだ。

hikaru_900-104.jpghikaru_900-105.jpg▲ギターのヘッドを自分で裁断しヘッドレス化。ボディエンド側に(かつてはヘッドだった)チューナーを設置するという荒業で作られたMark5。

hikaru_900-109.jpg▲Strandburgに搭載されていた高性能ピックアップを移植。そもそもボディがない=ピックアップの重要性が増すため、音の良さはこのピックアップのおかげともいえるだろう。

hikaru_900-113.jpg▲やはりピックアップはスライドして交換できる。ピックアップの台座に金属製のスライダーと3Dプリンターで作られた樹脂が使われている。

hikaru_900-114.jpg▲LEDを点灯させるための電池。取材をしていて気づいたが、柴田氏のギターで最も可能性がありそうなのは、大容量の電池などをギターに取り付ける、という発想かもしれない。今回はLED点灯用だが、新しい何かのデバイスはさまざまな電圧や容量の電気で動く、これをギターに搭載する、この辺がエンジニア独自の発想と言えるかもしれない。

hikaru_900-108.jpghikaru_900-106.jpg▲Mark4はタブレットを見ながら演奏できるようタブレットホルダーを装備している。また、後付けなので、全く整理されていないが、外周にテープ状の高輝度LEDを巻いている。LEDは音の強弱などによって色が様々に変化する。

◆Mark5 / 設計段階から光らせることを考えて設計。3Dプリンターのパーツもリファイン

hikaru_900-141.jpg▲3Dプリンターによる樹脂製フレームを使い、LED装備を設計段階から考慮したMark5。

Mark5はLED搭載やヘッドレス化を前提に製作されたギターだ。 ネックとブリッジは中国製のヘッドレス・ギターから流用。ネックが24フレット仕様だったこともあり、ピックアップはシングル・サイズのハムバッカーを採用している。フレームはコの字型の金属フレームを使い、内側にLEDや配線をしている。ピックアップ取付パーツを新たに3Dプリンターで出力し、パーツ数を減らし形状も合理的なものに変更している。 Mark4の派手な輝きに比べると、光る部分が少なく、光量も低めだが、フレームの構造やLED点灯の仕組みなどは大幅に進歩している。

hikaru_900-142.jpg▲ネックとボディエンドの間を金属フレーム、主要パーツの取り付けに3Dプリンターで出力した樹脂を使ったシンプルな構造。LEDの発光部は金属フレームの裏側に配置されている。

hikaru_900-147.jpg▲ウラ面。コの字型の金属フレームに沿って配線と小型の電池を配置している。

なお、このMark5を基にしてMark6とMark7も製作された。Mark6は現在改装中、Mark7は昨年末に柴田氏の盟友である落合陽一氏の手に渡った。

今回、柴田氏のギターを従来の楽器の価値観にあてはめると、どれも楽器としての完成度は極めて低い。それは柴田氏自身が"エンジニア"でギターを作る"クラフトマンではない"からだ。しかし、着目すべきポイントばかりで構成されている。ボディの役割を根本的に無視して、金属フレームにパーツを取り付ける発想。他にも3Dプリンターの活用、LEDの搭載、タブレットとの連携などの21世紀になってから登場した技術は意欲的に取り入れている。つまり、彼は彼の視点から、新しい技術を使い"ギターを新たにデザインしている"のだ。柴田氏の経歴や彼を取り巻いているインテリジェントな人材などを見ると"未来のギター"が彼のもとから誕生するかもしれない。


SnapShot(1)-2.jpg▲柴田 英寿(Hidetoshi Shibata)

柴田氏Twitter

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