フェンダーのヴィンテージ・ギターは、機能性を最優先させてデザインされており、インレイやバインディングといった装飾類もほとんど施されてはいない。これは、技術者であるレオ・フェンダーの開発スタイルで、それがフェンダー・ヴィンテージ・ギターのキャラクターにもなっている。
1964年に発売されたマスタングは、中価格帯のモデルでありながら、オフセット・ウエスト・シェイプのボディ、2つのピックアップはフェイズ・イン/アウトを選択できるミックス・ポジションを用意、そしてジャズマスター/ジャガーに使われていたフリー・フローティング・トレモロを進化させたマスタング専用となるダイナミック・トレモロが搭載された優れたモデルだった。更に、ローズウッド/メイプル製のネックは、24インチのミディアム・スケールに設定された22フレット仕様(主だったフェンダー・ギターは25.5インチ・スケール)になっていて、ロゴ・デカールを除けば、実質的にトップ・モデルのジャガーと同じものが使われていたことになる。そして、マスタング用にデザインされたボディやピックガード、コントロール・アッセンブリは、下級モデルとなる1ピックアップのミュージックマスター、2ピックアップでハードテイル・ブリッジのデュオ・ソニックにも転用された。つまり、これら3モデルは、ネック/ボディが共通で、ピックアップ・アッセンブリやブリッジなどの搭載パーツとロゴ・デカールを選択するだけで、異なるモデルになるという生産効率的が優れたモデルだった。
※写真は22.5インチ・スケールの1965年製ミュージックマスター II(左)と24インチ・スケールの1967年製マスタング(右)を組み合わせた様子。
上記のモデルには、ネック・オプションとして24インチ・スケールではなく、22.5インチ・スケールのショート・ネックが用意されていた。ところが、両ギターには同じボディが使用されているのである。スケールの異なるネックをそのまま取り付けたのではブリッジ位置がずれてしまうだろう。しかし、フェンダー・ギターは、24インチ・スケールを22フレット、22.5インチ・スケールを21フレットにすることで、ブリッジの取り付け位置を同じ場所へと誘導しているのである。
Text by JUN SEKINO