インタビュー

より歌ものを追求したリゾネーターギターの才女、Chihanaが『Blue Moon Saloon』を語る

Open The TREASURE BOX 【File#5】

Chihana

 リゾネーターギターの弾き語りスタイルで、老若男女問わずグッとくるブルージーな楽曲を生み出しているChihanaにアプローチ。ここではリゾネーターギターのこと、そして『Blue Moon Saloon』の制作エピソードを語ってもらうとともに、彼女の愛器であるドブロをご紹介したい。

 毎回そのミュージシャンにとって特別なこの1本という楽器をクローズアップするとともに、その楽器に出会うまでのストーリー、こだわりの部分を撮りおろし写真とともにレポートする「Open The TREASURE BOX」。

 今回はリゾネーターギターの弾き語りスタイルで、老若男女問わずグッとくるブルージーな楽曲を生み出しているChihanaにアプローチ。加藤和彦の形見であるナショナル・ドブロなど様々な弦楽器を操る才女であり、ギタリストとしても様々なバンド、セッションで活躍中だ。

 最新ソロアルバム『Blue Moon Saloon』は、シンガーソングライターとしての魅力も前面に押し出しており、過去のソロアルバムと比較するとオリジナル曲の割合が増えて、また様々なタイプの楽曲を歌い上げるChihanaを堪能できる仕上がり。勿論、全国をリゾネーターギターで渡り歩くような彼女の旅は続いている。

 ここではリゾネーターギターのこと、そして『Blue Moon Saloon』の制作エピソードを語ってもらうとともに、彼女の愛器であるドブロをご紹介したい。

加藤さんのドブロで歌うことは凄く意味があると思った

chihana_top.jpgーリゾネーターギターとはどのように出会ったんですか?

Chihana:私が高校時代に村八分のコピーバンドをやっていた時はエレキギターを弾いていたんですけど、18歳の時にバンドが解散して完全にフリーになって。(村八分の)加藤義明さんのサポートでギターを弾くことになって、当初はエレキギターを弾いていたんですが、義っちゃんのやる曲がカントリーブルースだったので段々とそういう音楽を演奏するようになったんです。ちょうどその頃1本目のリゾネーターギターを譲ってもらったのがきっかけでスライドギターも弾くようになりましたね。

ーご両親がバンドをやっていて家に楽器がある恵まれた家庭だったんですよね(笑)。

Chihana:父や母もロック好きだったのでエレキギターはお下がりで今も持っているんですけど、その中にリゾネーターギターはなかったですね。

ー最初聴いた時の印象はいかがでした?

Chihana:私はそれまで普通のアコースティックギターもちゃんと弾いたことがなかったので、しかもリゾネーターだから響きも違いますし。でもその頃はただ見た目が他と違っていいなってことくらいしか考えてなかった(笑)。いざスライドプレイしてみるととても楽しくて。

ー同年代ギタリストではあまりいなかったタイプかと思うんですが...。

Chihana:今もあまりいないですね...まず女性はいないです。私の場合、20歳の頃にファーストアルバムを作るってことになった時、このキャラでやっていこうっていう漠然とした考えがあって。弾き語りを本格的にやろうと思ったのも『Sweet Nothings』(2009年)の時で、"どうやって歌いながらスライドギターを弾くか?"を考えて。ブルースのカバーを最初はやっていましたけど、そのうちにブルース以外のカバーでも人前で立てるようにとか追求するようになったと思います。

ー自分で道を切り開いてきたようなものですよね(笑)。

Chihana:どうなんですかね、とにかく他にいないですからね(笑)。途中から"私がやらないと..."っていう義務感みたいなものが生まれてきて。それはスライドだけじゃなくてルーツミュージック全体の話なんですけど。その延長線上でやってきて、最新アルバムの『Blue Moon Saloon』もその意識で作ったんですけど。若い子がライブを観てくれた時に、スライドギターの認識が広がっていったらいいな、という想いはあります。現時点でライブに来てくれるのは年齢層が高い方が多いんですけど(笑)。それは勿論ありがたいんですけど、この先のことを考えると若い人達にも広げていかないとなって。

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2016年に発売された3rdアルバム『Blue Moon Saloon』◆Blue Bayou Records ◆BBR-006◆2,000円(税込)

ー特に近年は全国津々浦々ツアーし続けている印象がありますね。

Chihana:前作『RED and BLUE』を出した時は特に日本中いろんなところにアルバムを届けて歩きましたね。それ以後も年に2回くらいツアーするようにはしていました。22、3歳の頃、初めてツアーし始めた時は人づてでツアーを何本か切りましょうってお話をいただいてやっていたんですが、それをやっていくうちにお店と直接の関係ができたり、また違うお店を紹介してもらったりもして、今は全部自分でスケジュールを組むようになりました。でも一年中回っている人を見るとまだまだだなって思いますけど。東京都内で月一、隔月で決まってやるお店もあるんですが、本当にたくさんのお店があるんですよね。私の場合は一人だからどんなところでもできるので、いつでも新規開拓したい気持ちがあるんですけど。

ーそれにしてもここまでキャリアを積んでツアーし続けてきたのは凄いなと。

Chihana:いやいやいや(笑)。

ーしかも女性となるとある時期でやめちゃうタイプの方もいらっしゃいますし。

Chihana:あぁ、私くらいの年齢になると結婚とか出産とかありますものね...。

ーリゾネーターギターの弾き語りスタイルでライブやる時、1本でなんとかなるものなんですか?

Chihana:なんとかしていますけど、何本も持ち込んでいる人を観ると羨ましいと思いますね。いろんなチューニングをしたり、できることならしたいんですけど。

ーChihanaさんの場合、特化したギターを使いつつもプレイする楽曲は決してルーツミュージック一色ではないですよね。

Chihana:わりとそれもあってメインギターをウッドのドブロに変えたところがありますね。毎週のようにガツガツ弾いていると、今まで使っていた加藤和彦さんから譲っていただいたドブロが消耗しちゃうというのもあって。最近はカントリーや昔の歌謡曲っぽいものもやるようになったので、音色的にウッドのドブロは温かい音も出るし合うんですよね。スライドしたらブルースっぽくもなるし、わりとオールマイティなイメージは試奏した時からあったし。あとは軽いのでツアーの時は楽チンですよね。元々のドブロで慣れちゃっていたので、やっぱりツアーの時の身体へのダメージが違いますね(笑)。

ー確かに加藤和彦さんのドブロ・モデル33と比べると半分くらいの重さですね。

Chihana:しかも以前はハードケースでツアーを回っていたのでもう無理って思って(笑)。ピックアップも付いていて1ボリューム、1トーンなのでアンプで出しても良い音がするし。普段のライブではD.I.を挿すのとエアでマイクを立てた音と混ぜていますね。勿論加藤さんのドブロも素晴らしいので、レコーディングで使ったりしています。

ー加藤さんの「光る詩」のカバーはモデル33ですよね。

Chihana:そうですね。あれはあれならではの音があって。

ー「光る詩」は選曲からして驚きました。数ある加藤和彦の曲の中でこれを選ぶんだっていう。

Chihana:本当は『RED and BLUE』に入れようかなと思っていたんですけど。『それから先のことは...』のレコードは持っていたし前から好きな曲だったんですけど、北山修さんと親交のある方に"「光る詩」って知ってる?"って聞かれて。 

ー『それから先のことは...』は加藤和彦さんのアルバムの中でも、特にカントリーやウェストコーストサウンドに寄った内容でしたよね。

Chihana:マッスルショールズ・スタジオで作られたんですよね。あと安井かずみさんの歌詞が凄い好きということもあったし、他にやっている人がいないようで被らないなとも思って(笑)。私が加藤さんのドブロで歌うことは凄く意味があると思ったんです。『RED and BLUE』のレコ発ライブをバンド編成でやった時、すでに「光る詩」はやっていたんです。それが凄くハマっていたのでバンドで録ろうと思ったんです。全体的にカントリーっぽい雰囲気にしたかったのでペダルスティールも入れてもらって。

ー千賀太郎(MONSTER大陸)さんのブルースハープも素晴らしいですね。

Chihana:本当、凄くベテランの音ですけど(笑)。ベーシックは一緒に録ったんですが、太郎君のソロは後で重ねてもらいましたね。

ー加藤さんのドブロを譲り受けてからどれくらい経つんですか?

Chihana:加藤さんが亡くなった年(2009年)なのでもう7年以上経つんですね...VITAMIN Q(加藤和彦がANZA from HEAD PHONES PRESIDENT、小原礼、土屋昌巳、屋敷豪太と結成したバンド)のライブでオープニングアクトで出たんですけど、実はその日元々決まっていたライブがあったので、前座で演奏した後に曼荼羅でライブをやって、その後打ち上げに戻ったんです。加藤さんとはその時に会ったのが最後でしたね...。このドブロは弾き続けてきているうちに何度も修理しましたし、(リゾネーターの中の)コーンも何度と替えているんですけど、それで凄く音が出るようになったり、逆に音がこもるようになったり...。どうしても結構激しく弾くのでビスケット(コーンを覆うカバー部分)の周辺が凹んできちゃうんですね。やけに鳴りがよくないなと思って中を開けてみたら凹んでいたりするので。その度に交換をお願いしてコーンを取り寄せてもらったり。私の場合、1年に一度は交換していましたね

いかに最低限でも成り立つようにできるかが弾き語りの醍醐味

PL1610_tbox-111.jpgー現在メインのドブロはいつ頃入手したんですか?

Chihana:一昨年の春口です。『Blue Moon Saloon』のレコーディングでも結構使っていますね。あとわりとアコギが入っているんですけど、ギターシェルターさんにお借りしたギブソンのLG-1が凄く良かったんです。

ー「Good Good Times」あたりはテレキャスターですか?

Chihana:ソロはそうですね。4本ぐらい重ねたかな? 今回サウンド的にファイアーバードよりしっくりきたので。「Love Letters」のシルバートーンのピックギターも使いました。指弾きすると凄くいい感じなんです。「Love Letters」は元々ケティ・レスターが歌った映画の主題歌らしいんですけど...。

ー『Blue Moon Saloon』は圧倒的にオリジナル曲が中心になりましたね。

Chihana:『Blue Moon Saloon』は結構歌もの主体にしたいというのがあって、その中でスライドとかルーツミュージック感も出しつつ、そういうのが好きな人も喜ばせたいという。やっぱりオリジナル曲をやってなんぼだと思っていて、勿論カバーも自分のものになっていればやった方がいいと思うんですけど。普段ライブに行ったりしない、日常的に音楽を聞くタイプじゃない人が聴いてもなんか良いなって思ってもらえるような、言葉は正しくないかもしれないけど大衆的なものにしたかったんですね。でもベースとなるものはルーツミュージックや歌謡曲なり、昔の匂いがするものでありつつ。

ー作風的には『RED and BLUE』に続いて、大きく分けると弾き語りプラスαとバンドセッションものでまとめられていますね。

Chihana:いつもライブは一人なので、それとは別の感じにしたかったんですね。ライブを観てくれている人は逆にバンドものを聴いてみたいでしょうし。全体的にもリズム感やスピード感があった方が聴きやすいだろうと思ったし。でも最初っから弾き語りでしかやらないだろうなって思っていた曲もあって。

ー英語詞と日本語詞のバランス感はどのように考えていました? 

Chihana:それも半々くらいになればいいかなって。

ー相変わらず曲を作った時に出てくるのは英語の歌詞が多いんですか?

Chihana:そうなんです。それこそ「光る詩」は歌詞も素晴らしいし、歌謡曲なども聴くようになってから、自分でも日本語詞で書けたらいいなって。ここ1〜2年はそういう感じですね。

ー「港が見える丘」の原曲がわからないのですが...。

Chihana:これは平野愛子さんの曲ですね。昭和歌謡ですね。1947年ですから。ちあきなおみさんや小柳ルミ子さんとかいろんな方がカバーしているんですけど、私も二十歳くらいからずっと好きで歌っていて。去年の3月にレコーディングしたんですけど、ちょうどその時神保町の中古レコード屋を散歩していたら、SP盤が売っていたんです(笑)。でも高価だったし買っても家では聴けないしどうしようかと思っていたら、お店の方がそのSP盤をかけてくれて。もう今まで聴いたレコードとも違うし、その空気感が凄かったですね! しかもSP盤に付いていた歌詞が今インターネットとかで出回っていたものと全然違うことも知って。私のレコーディングはそのオリジナルの歌詞で歌ったんです。その時にレコード屋に行ったのは凄く意味がありました。

ー「Ship of Sin」はご自身のオリジナルですがシンプルな弾き語りですが、部分的にマンドリンが聴こえてきますね。

Chihana:最低限入れましたね。足すのは誰でもできると思うので、いかに最低限でも成り立つようにできるかが弾き語りの醍醐味だと思っていて。

ー「港が見える丘」も一瞬ヴィブラフォンが鳴りますよね。

Chihana:そう、3音だけ(笑)。歌詞的に当時のことを思い出している回想から今に戻るんですよ。その移り変わりの場面展開になったかなと。平野愛子さんの原曲はオーケストラ演奏で全然違うんですけど。

ー「Songbirds」もギターを弾いていると浮かんでくるタイプの曲ですか?

Chihana:この曲だけ実際に観た景色を絶対に曲にしようと思って。アメリカに行った時のことを書いたんですけど...。あまりそういうことはないので私にしては珍しいですけど。

ー「Good Good Times」のノリも最高ですね。

Chihana:セカンドラインは全然やったことがなかったんですけど凄く難しかったですね(笑)。弾き語りではなかなか難しくて、バンドだからこの感じでできました。

ー「I Get No Blues on Monday」は山口玉三郎さんのピアノとドライブギターが痛快ですね。

Chihana:この曲は一瞬で書けたんです。元々"Monday Blues"というブルースのイベント用に曲を書くことになって、結果的にちょっとアイロニカルな内容になって(笑)、やるんなら自分の曲として歌っていいかなって。

ー「Rock & Roll Gypsies」はChihanaさん自身の訳詞で歌っていますね。

Chihana:私の一番好きなスライドギター奏者がジェシ・エド・デイヴィスで、この曲は彼のアルバムでロジャー・ティルソンが歌っていて。せっかくだったらそのまんま歌うんじゃなくて日本語にしてみようと思ったんです。この曲、ジェシ・エドのスライドギターの音をめっちゃ真似したんですけど、そういったところでおそらくジェシ・エドを知らないと思うので...(笑)。

ー(爆笑)!

Chihana:何もリアクションなしみたいな(笑)。ロータリースピーカーシミュレータをかまして、凄いジェシ・エドのサウンドを再現できたっていうかなり自己満足な(笑)。

ー気づいてあげられずすみません(笑)。ラストの「夢だったみたいに」は、ソングライターとしてステップアップしたChihanaさんが感じられますね。

Chihana:元々ロック畑なのでソロ名義だとしてもそういう曲もやりたいなと思って。これも歌詞は一瞬でできて曲を載せただけなんですけど。

ー歌詞でブルーという言葉が好きですよね。 

Chihana:気がついたらそうなんですよね(笑)。ブルーとか夜とか...なんででしょう。

ー3年振りのソロアルバムですが曲は作りためていたんですか?

Chihana:そうですね。「光る詩」や「港が見える丘」は昔からやっている曲なんですけど、"あえて今作品にしたらどうなるかな?"と思ってやったり。「Ship of Sin」「夢だったみたいに」のような出来立ての曲も入れながら、今の私のサウンドをどれだけ出せるかなと。いろんなお店で言われたんですけど、客層も変わってくるかなって。わりと今までブルースのイメージだったのが、今回のライブを観てCDを買った人が、"実はChihanaっていろんなタイプの音楽をやっているんだって認識に変わってくるよ"って。

PL1610_tbox-1280-115.jpgDOBRO Model 33
 ドブロはジョン&ルディのドピエラ兄弟により、1928年に設立されたギター・ブランド。エレクトリックギターが開発される以前、より大きな音量で鳴らせるギターを目指して、リゾネーターギターが生まれた。円形のアルミウム製共鳴板(コーン)をブリッジ下に取り付けることで放たれる、独特のややメタリックな響きには何とも言えない魅力がある。故・加藤和彦より譲り受けた本器は、ドブロの代表的機種であるモデル33。吉田拓郎「結婚しようよ」のレコーディングで使用されたことで著名。それが71年録音なのを考えると当時新品を購入してすぐレコーディングに使ったのだろう。またサディスティックミカバンド『HOT MENU』の裏ジャケットに写っていることでもおなじみ、日本のロックシーンに残る1本だ。メタルボディの表裏にはつる草模様が描かれている。Chihanaはブリッジ部分にピエゾピックアップを取り付けて大事に使用してきた。

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DOBRO D-40E Texarkana
 現在Chihanaがメインで愛用しているドブロは、モズライト傘下となった1965〜67年にかけて生産されたレアなエレクトリックモデル。メイプルボディにスパイダーコーンが装着されるとともに、オリジナルのシングルコイルピックアップを搭載。1ボリューム、1トーンを備える。ウッドボディならではのウォーミーでアコースティックな鳴りも魅力で、弾き語りなどでもバッチリであり、またエレクトリックとしてシングルコイルサウンドも楽しめる1本。何よりメタルボディのモデル33と比較すると遥かに軽量な点も、ギターケースを片手に全国を旅するChihanaには嬉しかったようだ。

Interview by KAZUTAKA KITAMURA
Photo by MASANORI MORIHIRO

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2017年12月号

定価760円(本体704円)A4判

2017年11月2日(木)発売

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