インタビュー

the mother's booth 未来へ突き進もうとする意欲、覚悟がにじみ出てきた演奏

ライブレポート

the mother’s booth

メジャーデビューアルバム『Nikolaschka』をリリースしたthe mother’s booth。これを引っさげてのリリース記念ワンマンが催されたのは10月17日の渋谷O-Crest。実は『Nikolaschka』発売後、初の関東近郊公演でもあった。

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 オープニングゲストのGLIDERも独自のツインボーカル、洗練された音楽性とバンドアンサンブルで、鮮烈なステージングを発揮。スタイルは違うが、言葉の面白さ、多彩な楽曲はthe mother's boothと相通じるところもある気がした。 SEとともに暗転したステージにメンバーが登場。ステージ上にはオリーブカラーのもってぃのドラムセットが鎮座しているのにも目がいく。彼ならではのシャープなドラムフィルが放たれて、「kiss of life」でスタートだ。オーディエンスは右手をステージに向けて振り上げて、すでに序盤から大盛り上がりである。ステージ前の柵に乗り上げて弾きまくるりょじのギターソロも痛快だった。ハイテンションでぶっ飛ばすように「kiss of life」をプレイした後、"準備はできているか?"と香織が煽り、オーディエンスはさらに沸き上がる。「headspace」ではイントロ後、弦楽器隊が大きくジャンプするお馴染みの光景が繰り広げられた。もってぃは笑顔で髪を振り乱しながらドラミング、悠介もベースを高く掲げたりとのっけから激しいステージングを展開。さらに香織は"もっと来いよ!"と観衆を煽り「レッドスパイダーリリー」に流れ込む。サビのシンガロングパートは当然ながら大合唱だ。スラップベースプレイに、悠介ならではのスタイルも感じる。 "1stアルバム『Nikolaschka』リリースパーティにお越しいただきありがとうございます!"とここで香織最初のMC。だが、"話したいことはいっぱいあるけれど、まだ今はそんな気分じゃない"と「アストライアの秤」へ。初期ファンにはお馴染みの定番曲だが、『Nikolaschka』を聴いた後の印象だと、こんなポップな曲をやっていたんだと思ってしまうから不思議である。香織がオーディエンスと対峙する姿勢はいつにも増してパワフルで、"まだ終わらせないよ、みんな"という一言にも強さを感じる。いつもながらの笑顔も見せるが、今回の衣装はパンツ姿であり、いわゆるステレオタイプな女性ヴォーカルバンド的な見え方ではないところも新鮮だ。「ペレストロイカ」は現時点でレコーディングされていない楽曲だが、the mother's booth流のダンサブルさが痛快。悠介のフィンガリングとスラップを織り交ぜたベースプレイが唸り、随所でもってぃが流れるようなタム回しを見せる。

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 さらに間髪空けずのもってぃのドラミングから、りょじが空間系エフェクトを効かせたアルペジオリフを奏でて、『Nikolaschka』より「カリギュラ・エフェクト」へ。ライブ初披露の楽曲である。アルバムのクールさとはまた一味違った、ライヴヴァージョンならではのホットさを感じさせるミクスチャーナンバーであり、最新形the mother's boothを感じさせた。この後で初期の代表曲である「Losing Means」が来るというセットリストは、ファンにとって意外だったはず。まさかの楽曲に歓声が上がり手拍子が巻き起きる。アウトロのりょじのタッピングソロもこの曲の観どころだ。

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 ステージはここで暗転、シンセによるSEが流れてシーンが変わっていくのを感じて、もってぃのマーチングドラム風のスネアに、りょじのエキゾチックなアルペジオリフが加わり「すべて」へ。中盤の透明感あふれる美しいアルペジオパートなどを同時トラックで鳴らした初の試みであり、香織によるハイトーン・ファルセットがグッときた。続いてアルバム同様に喧騒のSEが流れて、もってぃならではのトリッキーなドラミング、特徴的な低音域の処理が加味された新境地ナンバー「Community」へ。大胆なまでに攻撃的な楽曲ではあるが、ギターが入るところで四人が顔を合わせて笑顔を浮かべているのも印象的だった。新曲が続くことで多少の緊張感も感じたが、このメンバーで演奏できる喜び、その達成感が伝わってきた場面である。香織の重厚なコーラスパートが同期トラックにより補われたスケール感が見事。悠介が重圧感のあるベースで支えつつ、りょじが長丁場のギターソロを披露するのも観応えがあった。 ここでMCコーナーを挟んでちょっぴりチルアウトさせた後、前作『DEPLUME』のタイトル曲である「DEPLUME」を久々に披露。心なしか原曲よりもBPMが幾分速い印象で、特にサビ部分は明らかに以前よりも激しさが増していて驚いた。もってぃはかなりどっしりとしたドラミングをしており、同じ曲とは思えない印象。この曲はまだまだライヴでさらなる進化を遂げていく気がする。ここでムードを変えるためか、もってぃによるドラムソロコーナーが挟まれて、スネアロールやハイハットワークで魅了。さらにはドラムフィルとオーディエンスのコール&レスポンスで、もってぃコールまで巻き起きる。得意のスティック投げも見事にキマって、悠介の豪快なスラップベースが炸裂する「スペキュレイティヴ・フィクション」へ。この曲もここにきてさらにアッパーなノリが増した気がする。また、りょじのタッピングソロも痛快だった。 シャープに「スペキュレイティヴ・フィクション」が締められた後で、ステージは再び暗くなり、ほのかに香織だけを照らし出す。愛器フェンダー・ジャガーで白玉を奏でながらのヴォーカルフェイク...いや、「ベイビーな彼にニコラシカ」の旋律を歌いだす。彼女ゆえのスイートハスキーな喉がやんわりと震わされた後、もってぃの歯切れの良いドラムフィルを合図に、お馴染みの「ベイビーな彼にニコラシカ」へ。MVが話題になったり、FM NACK5の10月度パワープレイに起用されたりと、この曲目当てで会場に足を運んだ人もいるかもしれない。ダンサンブルなビートにクランチ系のギターカッティングが絡み、香織の愛らしい歌声が重なり、抜群のポピュラリティを持つバンドであることも提示した気がする。"全てのひとに受け入れて 貰えなくても大丈夫さ"と歌い上げるメッセージは、きっといろんな人にエールを与えていくはずだ。

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 最後のMCコーナーでは、悠介も雄弁に『Nikolaschka』を待ち望んだファンへの感謝を口にする。"酸っぱい、甘い、苦いという三位一体、普段みんなが伝えられない想いを詰め込んだアルバムです"という香織の的を獲た発言にシンパシーを抱きつつ、ライヴはクライマックスへ。"プラトンの哲学を聞いた時、ロマンティックな考えだと思ったんです。誰かのことを自分のように想う...それが究極の愛なんだと思います"という香織のMCに続いて「人間球体論」へ。淡々とした歌始まりの楽曲は、どんどんとエモーショナルさを増していく。個々のプレイは他の楽曲と比べると驚くほどシンプルで抑えており、その分、歌心が込められたバンドアンサンブルなのに気づく。香織の情感たっぷりな歌声もまたどんどんエスカレートしていったのだが、彼女にしては珍しく、ラストのサビで感極まって一瞬歌えなくなる場面も見受けられた。

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 本編最後に用意されたのは定番曲「不完全カルテ」。鮮烈なフラッシュライト演出によるお馴染みのイントロに続き、タイトな8ビートにオーディエンスが手を振り上げた。正直、唐突に訪れたラストナンバーという感じもしたのだが、『Nikolaschka』の楽曲はこのバンドに新たなフェイズを確実にもたらしており、これまでとセットリストの流れは大きく変わった証でもある。 アンコールを求める声はマザブコールから、何故かもってぃコールも熱かった。黒地に"Nikolaschka"のロゴが描かれたTシャツに着替えて再登場した4人は、『Nikolaschka』リリースまでの決して平坦ではなかったエピソードも語ったのである。もってぃの入院然り、今回のライヴ直前に悠介が指を火傷したというドキッとする発言もあったが、いずれにしろ今回the mother's boothが『Nikolaschka』を発表できたのは、彼らのバンド史にとっても大きなタイミングだったと思う。"アンコールをいただいたので、マザブの感謝ソングをやりたいと思います"と、これまた未レコーディング楽曲である名曲ミディアムナンバー「君がいたから」を久しぶりに披露。ソウルフルで伸びやかな香織の歌声に、りょじがコーラスを添えた。さらに"もうちょっとやっちゃおうかな? やっとスタート地点に立った感じなので皆さんの応援をお願いします"と、ファンが待っていたであろう「UNDER CONTROL」をここでプレイ。りょじのヘヴィなディストーションサウンドをフィーチャーした、スピード感と重厚感が両立したキラーチューンであり、オーディエンスが拳を振り上げる。"RTRT"のカオスなブリッジパートからの開放感あふれるサビメロへの展開が爽快感たっぷりだ。さらには「Seize the day」も最後の最後で歌い上げる。"明日は無い それでもいいほど夢中で駆けてきた この人生史上で史上最高の今日を生きろ"と、シャウティに歌った香織を筆頭に、このバンドの熱さ、そしてさらに未来へ突き進もうとする意欲、覚悟がにじみ出てきた演奏であった。 久々の東京ワンマンだったが、この後北海道、広島、もってぃの故郷である熊本などなど、自信作『Nikolaschka』を引っさげたthe mother's boothの旅はむしろこれから始まると言っていい。バンドとしての新境地、香織の真摯なメッセージをたっぷり詰め込んだ楽曲と、「ベイビーな彼にニコラシカ」に大丈される圧倒的なポピュラリティは、これから一層の支持者を獲得していくのではないか。従来の楽曲にも進化を感じさせるシーンがあったのも大きな収穫だったが、the mother's boothの旅の向こうにさらなる期待が高まるステージングを見せてくれた。

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Text by 北村和孝 Photo by エモトココロ

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2019年6月号

定価890円(本体824円)A4判

2019年5月2日(木)発売

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