ズームのマルチエフェクツ・プロセッサー"G3/G3X"は、高い人気を誇るベストセラー製品としてよく知られている。そして、その上位機種にあたるG5nと同様に、製品名にnextを意味する"n"が加えられたニューモデル、"G3n"と"G3Xn"が先日発売され、今ギタリストの間で話題となっている。G3/G3Xからさらに磨き上げられ熟成されたエフェクト、G5nと同様に抜群の操作性、そして手軽に持ち運べる軽量コンパクトな可搬性は、あらゆるギタリストの強い味方となるだろう。この特集は、そんなホットな最新モデル、G3nとG3Xnの"進化"の実態を探ってみよう。
▲ZOOM G3n 価格=22,000円(税抜)
▲ZOOM G3Xn 価格=24,000円(税抜)
■G3n/G3Xnの進化
G3n/G3Xnが先代のG3/G3Xと外観上で大きく異なるのが、新たに追加された3つのフット・スイッチ。これにより操作性が飛躍的に向上したことは言うまでもない。ディスプレイは合理的かつ機能的に縮小されているため、G3n/G3Xnでは奥行きが僅かに伸びたものの、幅と高さはほぼ変わらないというコンパクトさを保っている。エクスプレッション・ペダルを搭載していないG3nであれば、ギグバッグのポケットにも充分収納できるサイズである。先代と比べると、総じて精悍さが増したイメージがある。
もちろん進化したのは外観だけではない。アンプ/エフェクト・モデルのバリエーション数を先代のモデルと比較すると、かなり減ったように思われるかも知れない。しかし、本機に搭載されているのは、より熟成され厳選された極めて実用性の高いものだけに絞り込まれている。
エフェクト・ボードでは面倒なエフェクトの並び順も、自由に入れ替えが可能。歪み系エフェクターの手前にワウを配置したり、アンプ・モデルの後にイコライザーを接続するなど、ユーザーの思いどおりのセッティングが手軽に行える。
これがパッチ・メモリーにより瞬時に切り替えが可能となる。パッチ・メモリーには75種類の実用的なプリセットが搭載され、それをアレンジするなどして作った自分自身のセッティングを、最大で150種類のメモリーが可能となる。もちろん、ズームならではのストンプ・モードでは、まるで足下にストンプ・ボックスを並べたかのような感覚で操作ができる。
▲G3nは181mm×234mm×58mmとコンパクト。本誌より小さい。
▲黒い筐体は、ステージでのハードな使用にも充分耐えられる強度を誇っている。一見重そうに見えるが、重量は僅かG3nで1.28kg、G3Xnで1.84kgと軽量な仕上がり。ギグバッグのポケットにも充分収納できるコンパクト・サイズなので、可搬性に優れライブやリハーサル時の強い味方となる。写真のG3Xnはエクスプレッションペダルを搭載し、ペダル関連のエフェクトも充実している。
■熟成された完成度の高いエフェクト
それぞれのエフェクト/アンプ・モデルは、熟成された完成度の高い実用的なものばかりが厳選されている。
アイバニーズのチューブ・スクリーマーTS808をエミュレートしたという"TS Drive"と名付けられたエフェクトは、トーン・コントロールの効き方だけではなく、オーバードライブの質感や残留ノイズの雰囲気までもが実に上手く再現されている。しかも、このノイズはズーム独自のZNRノイズ・リダクションにより簡単に除去も可能である。
ハイゲイン・ディストーションと中低音域が特徴のボス MT-2 メタル・ゾーンもうまく再現されているし、コンプレッサーの定番MXR ダイナコンプにしても同様だ。リピートする毎に原音がナマっていくアナログ・ディレイの雰囲気や、MXR M-117R フランジャーも特徴をうまく捉えている。70種類というエフェクト・モデルのバリエーションは、必要にして充分と言える。
■磨き上げられたアンプ・モデル
先代モデルでは22種類だったアンプ・モデルは、本機ではアンプ×5種類とキャビネット×5種類となった。ただし、新開発のアルゴリズムを用いたアンプ・モデルとなり、キャビネットのモデリングはIR(インパルス応答)技術の採用により、リアルなサウンドを生み出している。
アンプとキャビネットは自由な組み合わせが可能。例えば、6L6GCパワー管4本を使用したフェンダー・ツインリバーブのアンプ部と、セレッション G12T スピーカー4発をマウントしたマーシャル 1960A キャビネットをドライブさせた場合のサウンドなども再現できる。
6L6GCやEL84といったパワー真空管のキャラクターの違いはもちろんのこと、それぞれのアンプが持つ異なる回路の特徴までも実にうまく再現されている。フェンダーのツインリバーブであれば、3バンドのトーン・コントロール全てを絞り切ると音が出なかったりするあたりも、オリジナルと同様である。
キャビネットから出る音を拾ったサウンドを再現するマイク・モデルも搭載しており、レコーディングなどでライン接続をする場合に威力を発揮するだろう。ギター・アンプの集音で定番のシュアー SM57と、通称"クジラ"と呼ばれるゼンハイザー MD421の2種類のマイクが用意されている。しかもプロのレコーディング現場さながらに、そのミックス・バランスを調節することも可能である。
(エフェクト / アンプ・モデルとスピーカー・モデルの組み合わせなどは下の動画にて確認いただきたい。)
![]() デモンストレーター/渡辺キョータ Twitter @w_keshigomu Facebook https://www.facebook.com/KyotaW 音色ポスト http://www.neiropost.com |
■飛躍的に向上した操作性
新たに加えられた3つのフット・スイッチにより、ユーザー・インターフェイスは飛躍的に向上し、洗練された操作性を実現した。先代のG3/G3Xでは、スイッチの"長押し"が必要となる場合があったが、フット・スイッチの追加により、ほとんどの操作がワンタッチで行えるようになった。
パッチ・メモリーのバンクのアップ/ダウンや、メモリー・モードとストンプ・モードの切り替えも瞬時に行えるようになった。パッチを切り替えて、使用中にどれかのエフェクトのON/OFFをすることも容易に可能なので、特にライブでは大きなポイントとなるだろう。各エフェクトのパラメーターをコントロールするツマミも4つに増えたため、ページを切り替える必要が無くなり、より直感的な操作が可能となった。
USBケーブルでPCと接続することにより、ZOOMのウェブサイトからダウンロードが可能な専用アプリケーション、"Guitar Lab"を使用できる。これにより本体にメモリーされたパッチのバックアップなども可能となった。エフェクト・パッチの並び替えが画面上で容易に行えるので、曲毎に整理したバンクとパッチをセットリストに合わせて並び替えるというような作業も手軽に行える。
追加の新しいエフェクト・パッチが将来的に続々と配信される予定となっている。PCがインターネットに繋がっていれば、"Guitar Lab"がアップデートの有無を自動的に通知してくれる。つまり、本機はこれからも進化し続けると言うことだ。
ルーパー機能の最長録音時間は80秒に延長され、リズムマシン機能のパターンも68と増加するなど、この辺りもしっかりとグレードアップされている。
G3nとG3Xnとは僅かな価格の差なので、エクスプレッション・ペダルが装備されるG3Xnの方がお得感がある。しかし、ペダル・コントロールをあまり使わないギタリストや、あくまでも可搬性を重視するギタリストであれば、G3nを選ぶのも賢い選択かも知れない。
▲バックパネルには、AUX IN、USB端子などなど、充実したジャック類を装備。
Text : IKE UENO
音楽製作の第一線で活躍するプロギタリストの目に、このG3nとG3Xnはどのように映るのだろう? これまで先代のG3Xを愛用してきたギタリスト土屋浩一に、ニュー・モデルG3nとG3Xnを試奏した感想などを伺った。
VOICE 土屋浩一
先代のG3は、どのような場面で使っていましたか?
とにかく持ち運びしやすいので、レッスン時やライブ前の楽屋、ツアー先のホテルでの練習やウォーミングアップに使用しています。宅録時だと作業デスクにも置きやすいサイズなので、デモ作り等でも使用しています。
今回のG3nは、3つのファンクションペダルとコントロールノブなどが追加されました。操作性はどのように良くなりましたか?
3つのファンクションペダルにより、音色の切り替えがとてもしやすくなりました。ライブ時に曲中で音色を切り替える場合、先代ではメモリー・モードからストンプ・モードに切り替えるのも長押しだったり、バンクの切り替えもスイッチ2個同時押し等が必要でした。今回はそれぞれの機能が各ペダルに割り当てられているので、1回の動作で行えるのは助かります。あとペダルが増えたことにも付随しますが、先代のモデルはメモリー・モード時に画面上に表示されるエフェクトパッチが1個しかなかったのですが、例えば、A0からA2のパッチに切り替えるときはフットスイッチを2回踏む必要がありました。しかし、G3nはG5n系と同じように3つまでの音色パッチが各スイッチに割り当てられるので、一瞬で切り替えられますし、プリセレクト機能を使えば次のバンクの3つまでも選びやすく設計されているので十分です。ストンプ・モード時も4つ以上のエフェクトを並べた場合はスクロール表示させる必要がありますが、その操作もペダルで行えるので全部足でコントロールできるのは便利で、ライブでは実用的です。コントロールノブが4つになったことで、エフェクトのパラメーターをいじるのが1ページ分で簡潔したようになり、よりシンプルに音作りができます。
G3nの内蔵エフェクターのサウンドはいかがですか? お気に入りのプリセットは?
やはりアンプの音は先代より相当進化していて気持ち良いです。よりみずみずしいというか、音の密度が濃くなり、本来のアンプの音に近づいている印象です。中でもボグナーのモデリングは気に入っており、良く使っています。最近はブースト系のエフェクターも増えてきたので、ただブーストするためというよりは音に太さや艶を加えるために足すなど、積極的に音作りに使用しています。ブティック系の代名詞のモデリングと言えるケンタウルスのモデリングも気持ち良い歪みを作れるし、RCブーストのモデリングも好みです。プリセット系はひととおり弾いてみて、自然とフレーズが引っ張られたり自分にはないサウンドだなぁと思ったら、細かくエフェクターを確認しています。そこで新しいサウンドメイクを学ぶこともありますね。僕は極端にエフェクティヴな音色は使わない方なので、まずアンプのみのサウンドをセットして音の良さや気持ち良さを堪能してから、ブースト系や空間系を少し足してというように、いろいろ音を作っています。アンプはモデリングは使用せず自前でという方も、このサイズ感だったらボードにも組みやすいので、空間系のみの使用や自分のアンプに歪み等のストンプを足すような感じで使うのも良いでしょう。ほんとに何でも入ってるので、手元に一台あると安心ですね。
G5n以降、ズームのエフェクターは単なるアンプ・シミュレーションではなく、アンプとキャビネット、音を拾うマイク、それぞれの組み合わせを使ったサウンドメイクが特徴となっています。それぞれのシミュレーションの完成度はいかがですか? また、この方式でのサウンドメイクは、ギタリストにとってどのようなメリットがありますか?
マーシャルのヘッドとキャビの組み合わせも良いですが、実際のアンプでは組み合わせを変えている人もいますよね。僕もヘッドはヒュース&ケトナーのトライアンプでキャビはボグナーの2発ですが、よりこだわりの音を求める方はいろいろな組み合わせができるので、音の作り甲斐があるでしょう。マイクも2種類のブレンド率を変えるとかなり変わるので、いろいろと試して欲しいです。
Guitar Labのパッチの実用性は?
製品を購入した後からでも新しいエフェクトやパッチを追加できるというのは嬉しいです。パソコンとの連動と考えると難しく捉えてしまう方もおられるかも知れませんが、基本ドラッグ&ドロップでできるので、簡単に扱えると思います。ハードのみだとライブのセットリストに合わせてパッチの並び替え等をするのが少し面倒ですが、ソフトでは画面を見ながらなので楽ですし管理もしやすくて良いですよ。
土屋浩一 / 千葉県千葉市出身。立教大学在学中音楽サークルに所属しバンド活動をしていたが、4年生になると同時にトータル的なテクニックの会得や技術の向上を目指し音楽学校メーザー・ハウスに入学。葛城哲哉氏、鈴木宏幸氏に師事。在学中の2004年にglobeのツアーにサポート・ギタリストとして参加、その後、ワーナーミュージック・ジャパンよりメジャーデビュー。globe、KAT-TUN、栄喜、藍井エイル、堂本光一、ユナクfrom超新星などのサポート・ギタリストとして活躍中。また、千葉、葛西を中心にReal-G Guitar Schoolを開き、ギター・レッスンも開催している。 |