■幅広いノウハウを活かしたジーン・ベイカーの楽器作り
今回ご紹介するSL Deluxeの製造元であるb3ギターズの主宰者ジーン・ベイカーは、中学生の頃からギター作りを始め、GIT(現在のMIの前身)でギターを学び、演奏活動と並行して20歳の時にリペアマン兼カスタム・ビルダーの仕事を始めた、早熟の才人である。やがて彼は、ギブソンのカスタムショップで名匠ロジャー・ギフィンと共に働き、フェンダーのカスタムショップに移ってからはシニア・マスタービルダーの地位を得ている。フェンダーを去ったベイカーが、現在のb3ギターズに至るオリジナル・ブランドの経営を軌道に乗せるまでには紆余曲折があったが、その間に彼はプレミア・ビルダーズ・ギルドのチーフ・マスター・ビルダーとして、他のブランドの楽器の設計も請け負った。つまりベイカーの楽器には、エレキ・ギターの2大ブランドの最高の製造部門で培ったノウハウはもちろん、さらに幅広いギター作りのノウハウも活かされているのである。
■モダンな奏法にも対応するネック・グリップ
SL Deluxeは、御茶ノ水のギター・プラネットのハイエンド・ギター専門スタッフが、ダブル・カッタウェイのモデルであるSLを基にカスタムオーダーしたもので、リアルなレリック仕上げとピックアップのコイルタップ機能が特徴となっている。ボディのデザインは、ベイカーがフェンダー時代に手がけたロベン・フォードのシグネチャーを彷彿とさせる。正直なところ、デザインはむしろPRSに近いのだが、実機を手にすれば、弾き心地の点でもサウンドの点でも、SLはPRSとは明らかに異なる方向性を持った楽器であることがわかるだろう。
▲弦落ちを防ぎ、複雑なコード・フォームにも対応するようにナット幅は1.687インチを採用
▲試奏動画の中でも語られているネック・ジョイント。ハイ・ポジションでの演奏性を追求した絶妙なシェイプに仕上げられている。
▲ヘッド・アングルはギブソン・ギターと比べるとやや浅めに仕上げられている。
まず、全てのポジションで弾き心地が均質なネック・シェイプは、この楽器がトラディショナルな奏法はもちろん、タッピングやジャジーなコードを交えるモダンな奏法にも対応した"コンテンポラリーな"楽器として設計されたものであることを示している。この点、太目で"漢(おとこ)な"感じのグリップを持つPRSとは対照的だ。なお、本機のスケールは24.625インチで、24.75インチのギブソン・スケールよりも0.125インチ(約3mm)短い。浅めのヘッド・アングルと相まって、テンションは柔らかめでベンドもしやすいが、サウンドの歯切れ良さはしっかりと保たれている。
■ノイズが少なく存在感のあるコイルタップ・サウンド
コイルタップ機能が威力を発揮しているのはThroBak ECR MXVピックアップ搭載の2TSBで、ハムバッカー時にはいかにもギブソンらしいトーンが得られるいっぽう、コイルタップ時には驚くほどフェンダーに近いサウンドになる。それに対して、Jason Lollar Imperialピックアップ搭載のLemon Dropは、コイルタップ時の個性は2TSBに一歩譲る印象だが、ハムバッカー時には2TSBよりもさらにヴィンテージ感の強い、スウィートなギブソン・トーンが得られる。両者とも、コイルタップ時でもノイズが増えないことは特筆に値する。どちらの個性も捨てがたく、選択に困るのもこのギターの魅力のひとつということだろう。
▲2TSBモデルにはスローバックECR MXVハムバッカーを搭載
▲レモンドロップ・モデルにはローラー・インペリアル・ハムバッカーを搭載