――テレビの中の"一人のシンガー"
名古屋市守山区・新守山駅より徒歩1分。アクセスの良い場所にありながら、どこか落ち着いた空気が流れる街に店を構える「オットリーヤ ギター」。オーナーの中澤氏に"ギター"を強烈に印象づけたのは、小学4年生の時にテレビで見た"長渕 剛" さんだった。
アコースティックギター1本を抱え、自分の感情そのものをぶつけるように歌う姿に、「めっちゃカッコいい!」と、子どもながらに強い衝撃を受けたことを、今でもはっきり覚えているという。
「どうやったらこんなふうに人の心を動かせるんだろう」「自分もアコギ1本で何かを伝えられるようになりたい」そんな思いが自然と芽生え、気がつけばアコースティックギターに強く憧れるようになっていたと、当時を振り返る。
――青春は"弾き語り一直線"
そんな中澤氏にとって初めてのギターは、中学1年生の時に友達のお兄さんから5,000円で譲ってもらったメーカー不詳のアコースティックギターだった。
今思えばネックは反り、弦高も高く、とても弾きやすいとは言えないコンディション。それでも、手に入れた時の嬉しさは格別で、毎日夢中になって見よう見まねで弾いていたという。
『あの頃の無我夢中な時間は、今でも鮮明に思い出として残っています。
長渕剛さんに強く影響を受けていたこともあって、いわゆるバンド活動にはあまり興味がなく、当時から"弾き語り"が中心でした。アコギを抱え、ハーモニカホルダーを首からぶら下げる、あの定番スタイルです(笑)。
中学生の頃は、同じく長渕剛さんや 尾崎豊 さんが好きな仲間が2〜3人いて、友達の家に夜な夜な集まっては、それぞれギターを持ち寄り、夢中で練習していました。』
高校に入ると、「長渕さんみたいなシンガーソングライターになりたい!」という思いがさらに強くなり、自分で曲を作り始めた。完成した曲をラジカセで録音し、雑誌で募集していたレコード会社のオーディションにも応募。しかし結果は惨敗。夢は叶わなかった。
『その後、社会人になったタイミングで、その夢にはひと区切りをつけることになりましたが、アコギだけはずっと手放すことなく、趣味として弾き続けてきました。友人や会社の先輩の結婚式では、余興として弾き語りを頼まれることも多く、定番の「乾杯」を披露して盛り上がっていたのも、今では良い思い出です。』
――趣味が仕事に
高校卒業後、中澤氏は約20年にわたり、楽器とはまったく関係のない業種でサラリーマンとして働き、転職もいくつか経験した。しかし、その間もアコースティックギターだけは常に手元にあり、生活の中で欠かせない存在だったという。
『結局どこへ行っても、アコギだけは辞められなかったんですよね(笑)。』
「オットリーヤ」開業前の約10年間は、趣味としてインターネットオークションを通じ、アコースティックギターの売買を行っていた。最初は単純に「好きなギターを売ったり買ったりする」という感覚だったが、ある時、壊れたギターを安く仕入れて修理・再販したところ利益が出たという。
『"あれ? これ、いけるぞ!?"と思ったのが始まりでした。
気づけばその面白さにハマり、副業としてコツコツ続けるようになっていたんです。』
『続けていくうちに利益も徐々に大きくなり、「これ、本業にできるんじゃないか?」と本気で考えるようになりました。ちょうどその頃、当時勤めていた会社が、今思えばなかなかハードな環境でもあって……(笑)。"会社を辞めたい気持ち"と、"楽器店をやってみたい気持ち"が、いい具合に背中を押し合ってくれました。』
そうして勢いと覚悟を持って一歩を踏み出し、これまでの経験と積み重ねてきた知識を武器に、2014年、「オットリーヤ ギター」を開業することとなる。
――憧れを形にした"心の1本"
そんな中澤氏にとっての"心の1本"が、「YAMAHA APX-10S」だ。
当時、強く影響を受けていた長渕剛さんが使用していたのは、ヤマハのカスタムモデル(通称"ハングリーモデル")。
『小ぶりなカッタウェイボディにブラックカラー、シングルヘッドというルックスがとにかくカッコよくて、「いつか自分もあんなギターを持ちたい」と強く憧れていました。後に、それがCWE-58のカスタムだと知るのですが、当時はそこまで分かっていませんでした。
そこで「それに近いモデルを」と探して辿り着いたのがYAMAHA APXシリーズ。その中でも、なんとか手が届く価格帯だった、定価10万円の「APX-10S」を目標に決めました。とはいえ、高校1年生の自分にとっては大きな買い物でした。当時、時給650円の喫茶店でウェイターのアルバイトをしながら、必死にお金を貯めていました。』
そんなある日、ふらっと立ち寄った楽器店で、カタログには載っていない"真っ黒"のAPX-10Sに出会う。
『いわゆる限定仕様の1本で、見た瞬間に「これだ!」と完全に心を持っていかれました。気づけばその場で購入を決意。学生2回ローンで買っていたんです(笑)。』
こうして手に入れた1本は、今でも手放すことなく店内に大切に展示されている。当時の憧れや努力、そしてギターにのめり込んでいった中澤氏自身の記憶が詰まった、まさに特別な存在だ。
――「ここで買ってよかった」と思える店に
『オットリーヤとして目指しているのは、"規模"ではなく、"記憶に残る店"であることです。
ギターはどこでも買える時代だからこそ、「オットリーヤから買いたい」と思っていただける存在でありたい。そのために、"狭く深く"をモットーに、一対一の時間を何より大切にしています。』
『効率よりも、一人ひとりとの時間。回転率よりも、一本との向き合い方。
――正直、商売としては非効率かもしれません。でも、その中にしか生まれない出会いや感動があると信じています。アコースティックギターは単なる道具ではなく、その人の人生に入り込む特別な存在なんです。』
『経営理念にもある通り、"アコギを通して青春時代に戻り、人生を楽しみ、感動を拡大させていく"。
そんな時間を届けられる店であり続けたいですし、ギターを通じて、かつて自分が感じた純粋なワクワクや楽しさを、もう一度呼び起こすお手伝いができたら嬉しいですね。』
これからも数や流行を追うのではなく、「ここで買ってよかった」と心から思っていただける1本だけを届けていきたい。オットリーヤファンに囲まれながら、「ちょっとクセは強いけど、なんか信頼できる店だよね」と言われる存在でいられたら――それが一番の理想だと、中澤氏は笑顔で語ってくれた。
※中澤氏は登録者数5万人(!)を超えるYoutubeチャンネル「アコギ専門店 オットリーヤTV」を毎日更新。新入荷ギターの詳しい紹介とサウンドチェック、お役立ち情報~ウラ話まで、軽妙なトークやギターのサウンドに思わず惹きこまれる。
https://www.youtube.com/channel/UC_B0hRUC_NuATetywhQcrmQ
(掲載日:2026年5月27日)










