Product Description
菊池正義氏は1943年生まれのベテラン製作家である。 ギター製作の師は、中出一門の、もう一人の総帥である中出六太郎氏である。 本器の製作年は73年であるので、菊池氏が30歳の頃の作品。 シリアル№64とあるので、独立後間もなくの頃の製作と思う。 本器の音を一言で表現するなら、「個性に溢れた美音」とでも言おうか。 師事された方の影響が大きく、独立された後も師の音とよく似た音のギターを作る製作家は多くおられるが、ここまで個性に溢れた美音を持つギターは、むしろ稀な例と思う。 音の良し悪しについての感想は、個人の好みや感性によるところが大きく、それゆえ絶対的なものではないが、蛇足ながら自分がギターの音を判定する基準をお伝えしておく。 各弦・各ポジションでの音のビビリや詰まり等のチェックは当然ながら、最終的には自分なりのチェック項目に基づいた各曲を弾くことで判定している。 普通、ギターのヴォイシングといえば開放弦をベース音にしたオープンヴォイシングが多く、それがギターの特徴でもあるが、特にクラシックギターは全セーハで押さえるクローズヴォイシングが苦手と思う。 F・モンポウのコンポステラ組曲、第2曲「Coral(コラール)」は、クローズヴォイシングのコードの連続で、ギターを綺麗に響かせることがなかなか難しい。 往年の名ギタリスト芳志戸幹雄が作曲した「ペルーの唄」は、留学中の同窓であったペルー人のギタリストが口ずさんでいた故郷のメロディーをもとに作曲されたが、12フレット以上の超ハイポジションで押さえるコードが連続し、テクニック云々よりもギター自体を響かせること自体が難しい曲と思う。 ロドリーゴの「三つの小品」の1曲目「ファンダンゴ」は、代表的な不協和音である短2度が多用され、それに続く甘美なメロディーとの対比が素晴らしいが、不協和音がそれらしく響くことが肝要と思う。 その他、機能和声を使わない現代曲では、武満徹の「FOLIOS(フォリオス)」 では神秘的な和音の響きを、ロドリーゴの「祈りと踊り」ではハーモニックスの響きを、それぞれ確認している。 いずれの曲も超難曲で、当然ながらスラスラ弾けるわけではない。 それでも譜面を見ながら、まるで匍匐前進のように弾いても、その響きは十分に確認できる。 本器については、いずれの曲を弾いても、自分の中では高得点であった。 なかでも和音を弾いた時の色彩感がすばらしく、一瞬自分が格段に上手になったような気がした。 状態としては、弾き傷・小傷などは、やや多い方と思うが割れ補修など重大なものはなにもない。 音質重視、音の個性重視でギターをセレクトされる愛好家の方には絶対のお薦めである。 最後に、現代ギター90年版 ギター名鑑に掲載された菊池氏のコメントをご紹介しておく。 同氏のギター製作家としてのポリシーが表現されている様に思う。 「ギターは理屈の宝庫だ。 下手な理屈を、まずい感性で裏打ちすると、二重苦のギターができる。」 最後に、本器の仕様については、トップ/ドイツ松、サイド&バック/ローズウッド、指板/本黒檀、もちろんオール単板仕様である。
また一言付け加えるなら、本器の裏板の画像をご覧になって、一見するとハカランダ材のように見えるし、その可能性もゼロではないが、側板の木目から勘案しても当店の見解としては裏板&側板の使用材はローズウッドが妥当と思う。