商品説明
稲葉征司67年製作のローズモデルである。
稲葉征司氏について愛好家の方はどんなイメージをお持ちだろうか。
中出阪蔵一門の中堅製作家、そのような感じではなかろうか。
しかしながら当店の評価はまるで違う。
最初にあくまで自身の個人的見解として申し上げるが、○○系の有名ブランドのギターの系列にある製作家のギターの音
あるいは○○一門といった系列にある製作家のギターの音は、どれも同じような音の傾向にあると思う。
以前、現代ギター誌でホセ・ルイス・ロマニリョスがインタビューに答えて曰く、邦人製作家の作るギターの音はどれも似通っていてまったく個性がない、そのように忌憚なく言い放っていたが、多分この事を指すものと自分は理解している
おそらくロマニリョス氏は日本の代表的なブランドのギターしか見ていないものと推察される。
話を戻すと、中出阪蔵一門が構成する言わば中出ヒエラルキーの中で、自分が思う特異な存在は、井田英夫氏と稲葉征司氏のお二人である。
華麗な装飾と美音で知られる井田ギターとは真逆の地味な外観ながら哀感と明るさが入り混じるスペインギターと同質の美音をもつ稲葉征司ギター。
あまり良い例えではないが、昨今流行りの「ルッキズム」丸出しで、一人・昭和(ひとりしょうわ)を生きている自分のような老人が例えるなら、まるで化粧気がなく服装も地味な感じの女性で、周囲もあまり気にも留めないが、よくよく見ると、とてつもない美人であった。
稲葉征司ギターとは、そんな感じのギターと思う。
音の良さ、正確無比を極めた工作精度の確かさ、一流の輪島塗を想起させる緻密な塗装…等、特に塗装についてはおよそ半世紀が経過しているにもかかわらず劣化などには無縁で、製作当初の艶と輝きを今だ維持している。
稲葉征司氏の技量のほどを証明する過去のエピソードを二つご紹介しておく。
店名は明かさないが関東圏でいくつも店舗を構える超有名店から時折ギターが送られてくる。
修理の依頼である。
どこで入手されたものか、自分には「eベイ」のような海外のオークションサイトしか思い浮かばないが、海外の名品ではあるものの、どうしようもない酷い状態らしいが、稲葉氏の手にかかると完全に修復される。
もとの状態からは想像出来ないほど奇麗なギターに復活するそうな。
修理が終わり、送り返す時には100万円単位の運送保険をつけて送り返す、そのようなケースもあったらしい。
その超有名店なら規模からいっても優秀なリペアマンも複数おられると思うが、彼らを飛び越えて稲葉氏に依頼されるのは同氏の技術を高く評価している証と思う。
もう一つは当店であった事例になる。
以前、下取りギターとしてラミレス1aが持ち込まれた。
とても良い状態のギターで、思いきって高値をお付けしたのだが、そのオーナー様曰く「それ修理歴があるよ」ポツンと一言いわれた。誤って踏んでしまった時の割れらしい。
修理箇所を示されたのだが、老眼鏡を二つ重ねして見ても全く分からず、内部からミラーで確認して初めて判明した。
ラミレス1aのような癖の強い塗装であるにも関わらず修理個所の塗装も完璧で周囲との差もまったく感じなかった。
恥ずかしながら、これほど完璧な補修は見たことがなかったので、修理はどなたがされたのかお尋ねすると、稲葉征司氏との答え。
すぐに納得したのと同時に、改めて稲葉氏の技量に驚嘆した次第である。
本器の状態としては、相応の弾き傷や打痕は散見されるが、割れ補修など重大なものは何もない。
前述のとおり塗装も奇麗で、かっての艶を今だ維持している
12フレット上の弦高は、6弦側3.5㎜、1弦側3.0㎜、の数値でサドル残も2.5㎜程度あるので、更なる微調整も可能になる。