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ギターテクニック-Guitar Technique-

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大友博の音楽旅コラム LONESOME HIGHWAY

VOL.4 LONDON CALLING.

7月の末、スティングに国際電話でインタビューすることができた。テーマは、リュートだけをバックに16世紀の英国人音楽家ジョン・ドウランドの作品を歌った『ソングズ・フロム・ザ・ラビリンス』につづく新作で、ドイツ・グラモフォンからの第2弾ということになる『ウィンターズ・ナイト』。英国民謡や子守唄、あるいはシューベルトやパーセルらの作品を取り上げ、さまざまな角度から「冬」を描いた味わい深いアルバムだ。

彼はかつて「静寂こそ音楽のもっとも大切な要素」といった意味のことを語っている。あるいは「私の音楽は1955年を起点としたものではない」といった意味のことも。そういった、いかにもスティングらしい発言の真意をあらためて納得させてくれるような作品に仕上がっている。インタビューの内容については国内盤のライナーノーツやいくつかの雑誌記事で紹介しているので、よろしかったらお読みください。
ちなみにそのインタビューは、『ウィンターズ・ナイト』の録音場所でもあるトスカーナの自宅からスティングが拙庵に電話をかけてくれる形で実現したもの。光栄なことであり、嬉しくもあったが、敬愛するアーティストのひとりでもあるだけに(現在愛用しているベースは51年型フェンダー・プレシジョンのスティング・シグネチャー・モデル)、さすがに緊張してしまった。

渡英を重ねて知る、英国の魅力

スティングとはじめて話をすることができたのは、88年の夏。ニューヨークでのことだった。「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」や「フラジャイル」を収めた『ナッシング・ライク・ザ・サン』をテーマにしたツアーをつづけていた時期だ。来日が決まっていた彼のニューヨーク滞在をドキュメントするテレビ特番のスタッフのひとりとして何日か行動をともにしたのだった。コンサート収録の日、会場だったジョーンズ・ビーチ・シアターへの移動のための車がなにかの都合で到着せず、スティングが僕たちスタッフの車に同乗するという、それこそ「ニューヨークの魔法」のような事件も起きている。

6年後の夏、やはりテレビ特番の仕事で、英国ウィルトシャー州の田園地帯に建つチューダー期のマナーハウス(貴族が暮らした荘園)に、当時はそこを生活の拠点としていたスティングを訪ねた。レコーディングにも使われたキッチンにはさり気なくトレードマークのヴィンテージ・プレシジョンが置かれていて、もちろんきちんと承諾を得てから、抱えさせてもらったことも、忘れられない思い出だ。この時の渡英は完全な仕事であり、旅と呼べるものではなかったが、ストーンヘンジやソルツベリーを訪ねることもでき、あるいは田舎のパブで豆料理を肴にギネスを飲んだり、マナーハウスを改装したB&Bに宿泊することができたりしたこともあり、それまでは希薄だった英国的なものへの興味をぐっとアップさせてくれる貴重な体験となった。

日本ではまったくビールを飲まないのだが、イギリスに行ったら、やっぱりパブでギネスということになる。パブのざわめきのなかに身を置き、泡が落ち着くのを待ってから、グラスを口に持っていく。あの感覚も、英国旅行の喜びのひとつだ。

古代遺跡、ストーンヘンジ。周辺には土産屋もたくさんあり、かなり観光地化されているが、それでもやはり、近づいてみるとそこにはミスティックな空気が濃密に漂っていた。じっと見つめているうちに、なんとも不思議な気分になってくる。

ここでやや脱線。欧州で成功した人たちが城や荘園に住むのは、富の誇示ではない。あれは、いわゆるノーブレス・オブリージ。もともとは貴族が戦時にどう行動すべきかの指標を示した言葉だそうだが、要するに、社会的に高い地位にある者、富や名声を得た者は、それに応じた義務や貢献をはたさなければいけないということだ。近年、この国では情けないほど馬鹿げた感じで誤用されている「セレブリティ」とは、本来、そういった意識を持って生きる人のことなのだ。

古代遺跡、ストーンヘンジ。周辺には土産屋もたくさんあり、かなり観光地化されているが、それでもやはり、近づいてみるとそこにはミスティックな空気が濃密に漂っていた。じっと見つめているうちに、なんとも不思議な気分になってくる。

日本ではまったくビールを飲まないのだが、イギリスに行ったら、やっぱりパブでギネスということになる。パブのざわめきのなかに身を置き、泡が落ち着くのを待ってから、グラスを口に持っていく。あの感覚も、英国旅行の喜びのひとつだ。

ロンドンのウォータールー駅から南西に向かう電車に乗る。しばらくすると右手に、今はもう使われていない火力発電所が見えてくる。そう、ピンク・プロイドの『アニマルズ』のジャケットに登場するあの発電所である。

はじめてロンドンを訪れたのは、87年のことだった。当時、イギリスのミュージシャンたちはブリンス・トラストなど若者たちの雇用機会を求める運動に積極的に参加していたが、たしかにピカデリー・サーカスあたりでは、寝袋にくるまって路上で眠る人たちを少なからず目にした。そんな時期のことだ。
以来、94年のスティング取材を含めて、ヒースロー空港の薄暗いイミグレーションを20回ほど通過してきた。たいていはロンドンを中心に行動し、せいぜい近郊を回るという程度のものだが、時間に余裕があると、電車に乗って海岸沿いの街を訪ね、ドーバー海峡や大西洋を眺めながら本格的なフィッシュ&チップスを肴にスコッチを楽しむということもしてきた。なかでも、スティングがザ・ポリス時代に出演した映画『さらば青春の光』(四重人格)の舞台となったブライトンの海岸は強く印象に残っている。
05年の春には、ロイヤル・アルバート・ホールで開催されたクリームの再結成コンサートを観るために、数日間、アールズコート駅近くの安B&Bに滞在した。この時は、ふと思いついて、電車とバスを乗り継ぎ、エリック・クラプトンが幼少期を過ごしたサリー州リプリーまで足を伸ばしてみた。

リプリーは小さな街だ。バスは1時間にわずか数本。エリックはその小さな街で、実の父母を知らずに、9歳までは祖父母が両親だと信じ込まされて暮らした。やがて彼はブルースを知り、ギターの深遠な世界に入り込んでいく。豊かな緑が広がる街を歩き回ったあと、ロンドンに戻るバスを待ちながら、何十年も前、ギター・ケースを提げて同じ停留所に立っていたかもしれない若き日のエリックを頭のなかで思い描いてみた。

クラプトンの生まれ故郷、サリー州リプリー。幼くして亡くなった息子の葬儀はこの教会で行なわれたという。

クラプトンの生まれ故郷、サリー州リプリー。幼くして亡くなった息子の葬儀はこの教会で行なわれたという。

ロンドン名所のひとつ、ロイヤル・アルバート・ホール。ケンジントン・パークの南側に建っている。クリームの解散コンサートもここで行なわれた。

この年の7月には、アルバム『バック・ホーム』を完成させたばかりのクラプトンをテームズ河沿いの静かな住宅地にあるオフィスに訪ねている。それはロンドンで2度目の爆破テロが起きた日のこと。地下鉄も不通になってしまったため、歩いて向かったのだが、ロンドンの人たちが冷静に対応しようとしている様子が印象に残った。インタビューを終えてホテルに戻ると、街のパブではたくさんの人たちが穏やかな表情でギネスやスコッチを楽しんでいた。あの光景を目にして、僕はまた、イギリスが少し好きになった。

ロンドン名所のひとつ、ロイヤル・アルバート・ホール。ケンジントン・パークの南側に建っている。クリームの解散コンサートもここで行なわれた。

直近のロンドン訪問は、08年の7月。2泊4日のけっこう慌ただしい旅だったが、はじめてアビィロード・スタジオの内部に入り、半日ほど過ごすことができた。あれもまた、貴重な体験だった。

アビィロードの駐車場外壁のグラフィティ。担当者によれば、落書きやメッセージは大歓迎とのこと。訴えられたりしないので、ご心配なく。ただし、約4週間ですべて塗りつぶされる。どんなに素晴らしいメッセージやイラストを残しても、長くて一月の命ということだ。

ハイド・パークを散歩している時、親しくなった犬。目が可愛い。

夕暮れ時のハイド・パーク。奇跡的にほとんど人がいなかった。ハイド・パークとケンジントン・パークは隣接していて、長方形の巨大な緑地帯を形成している。ロンドンのホテルはどこも高いが、なんとかリーズナブルな値段でしかも歩いてこの公園に行ける宿を確保することが、旅を意義深いものにするポイントのひとつだ。

アビィロードの駐車場外壁のグラフィティ。担当者によれば、落書きやメッセージは大歓迎とのこと。訴えられたりしないので、ご心配なく。ただし、約4週間ですべて塗りつぶされる。どんなに素晴らしいメッセージやイラストを残しても、長くて一月の命ということだ。

ハイド・パークを散歩している時、親しくなった犬。目が可愛い。

夕暮れ時のハイド・パーク。奇跡的にほとんど人がいなかった。ハイド・パークとケンジントン・パークは隣接していて、長方形の巨大な緑地帯を形成している。ロンドンのホテルはどこも高いが、なんとかリーズナブルな値段でしかも歩いてこの公園に行ける宿を確保することが、旅を意義深いものにするポイントのひとつだ。

帰り際、駐車場で、北欧からの観光客と思われる背の高い青年に呼び止められた。「写真を撮らせてほしい」。ずっと以前から丸い眼鏡を愛用しているのだが、ひょっとするとあの人と重なるなにかを僕の肩の向こうに見てくれたのだろうか。光栄なことであり、嬉しくもあり、やはり相当、面映かった。

コラムで紹介した音楽

スティング
ウィンターズ・ナイト
[Import] [from US] (CDのみ)

本文でも触れたスティングの新作。伝統楽器、クラシック系の演奏家たちとともに深い味わいのアコースティック・サウンドで「冬」を描いている。ザ・ポリス再結成ツアーのあとに、一転してこういう作品に取り組むところが、いかにもスティングらしい。(大友)

スティング
ナッシング・ライク・ザ・サン

ソロ・アーティスト=スティングの評価を決定づけたアルバム。チリの暴力的圧政をテーマにした「ゼイ・ダンス・アローン」、高い文学性を感じさせる「イングリッシュマン・イン・ニューユーク」、他界する直前のギル・エヴァンスと吹き込んだ「リトル・ウィング」などが収められている。(大友)

ピンク・フロイド
アニマルズ

73年の『狂気』と75年の『炎』で確立した制作形態をさらに押し進めたアルバム。ただし、曲づくりはほぼ全面的にロジャー・ウォーターズに委ねられることとなり、その文明批評的な視線を強く打ち出した方向性は次の『ザ・ウォール』へとつながっていく。発電所の上に浮かぶ豚の気球は実際に飛ばせて撮影したもの。(大友)

エリック・クラプトン
レプタイル

サリー州リプリーで過ごした少年時代へのオマージュとして制作された自伝的内容のアルバム。ジャケットには自らの複雑な生い立ちを知ってしまった9歳のころの写真が使われている。(大友)

クリーム
Royal Albert Hall London May 2-3-5-6 2005 / リユニオン・ライヴ 05

解散から数えると、じつに37年後ということになる05年に実現したリユニオン・ライヴを記録したアルバム。サポート・プレイヤーなどは起用せず、キーも変えず、還暦を過ぎた3人が円熟のパフォーマンスで名曲の数々を聞かせている。選曲も文句なし。同内容のDVDもリリースされた。(大友)

ザ・ビートルズ
ラバー・ソウル

話題のオリジナル・レコーディング・リマスター版は、とりあえず『ラバー・ソウル』以降の6枚を発売日に入手した。オーディオへのこだわりやコレクター的指向がほとんどないため、細かいことはよくわからないが、ライナー類の充実ぶりは「さすが」と思わせるものだった。個人的には「ノーホエア・マン」と「イン・マイ・ライフ」にあらためてグサリとやられた。(大友)

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