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Product Description

【状態】
今から79年前に製造された個体。補修や交換箇所は多くそのどれもが精度高く手が入れられています。ヘッドプレート以外の箇所はリフィニッシュがされておりリフィニッシュ後に多くの弾き傷や打痕が出来ています。バック板の下部に恐らくリフィニッシュ前におきたであろう10cm程の割れ補修痕が2か所、その箇所の塗装が退けてわずかに段差が生じています。ブリッジ、ピックガードはいずれもオーバーサイズのものに交換されており、指板のサイドのポジションマークが無い事から指板全体が交換がされている可能性がございますがオリジナルと比較しても遜色なくMartin らしいい違和感の無い指板です。ペグはGroverのオープンギア。4弦ペグポストも交換がされています。バインディングは経年により収縮、割れが起きており箇所によっては交換がされている箇所もございます。また1弦側ネックヒール付近に穴を埋めたと思われる補修痕もございます。

ライトゲージを張った状態でネックは緩やかに順反り、6弦12フレット上約3.0ｍｍ、1弦12フレット上約2.5ｍｍ。高めではありますがサドル高は6弦下約2.1ｍｍ、1弦下約1.2ｍｍとサドル調整により現状の弦高を保っています。

【D-28】
アコースティックギターといえばD-28（ドレッドノートサイズのスタイル28）といわれる程アコースティックギターを語る上では欠かせないモデルとなったMartinD-28。その製造は今から90年近く前の1931年に現在よりもさらに大きいボディサイズの12フレットジョイントボディで誕生しました。その名前は第一次世界大戦で活躍したイギリス戦艦"ドレッドノート号"のように迫力のあるサウンドを生み出すモデルとして命名されました。空間に広がる迫力のある響きからピアノに代わる伴奏楽器として人気を博していきます。その後、1934年に音の迫力を損なうことなく12フレット以上のハイポジションでの演奏性を高めるため現在と同様のボディ形状の14フレットジョイントのD-28が生産されます。そこから現在に至るまで木材の産地変更やピックガードのカラーの変更等細かな仕様変更はございますがMartiｎGuitarの一番人気モデルとして一度も生産を止めることなく作られ続けております。D-28は音楽の歴史と共に歩んできており多くの著名ミュージシャンにも愛用されています。

【D-28 Herringbone】
当個体は1946年製のビンテージ個体。最も特徴的な点はボディの淵にヘリンボーンと呼ばれるジグザクの装飾が施されている点、後のAuthentic/Marquis/GoldenEra/HD-28Vの原型となる時代の個体。ナット幅は細めの42.9ｍｍ、ネックシェイプはVシェイプ。近年仕様で言うとModified Vのシェイプが一番近いかと思います。ネック補強材は年代からTバーのロッドが仕込まれているものと思われます。トップ材は1946年にアディロンダックスプルースからシトカスプルースへ変更されており、この個体も非常に杢目の詰まった綺麗なシトカスプルースが使用されています。

ブレーシングは現行品よりもサウンドホールから遠いリアシフトのノンスキャロップドブレーシング。当時今ではほぼ見なくなったヘビーゲージ弦(14-59)を張るプレイヤーが増えてきていたようで、この時代のブレーシングはより強固なブレーシング構造となっており、現行品よりも若干薄めのトップ板、ロングサドルと併せて力強い響きの一端を担っています。サイド・バック・ヘッドプレートはハカランダ。当時ハカランダの枯渇や規制など想像だにしなかったであろう美しい柾目のハカランダが使用されています。パワフルなサウンドに鮮明な響きの余韻を与えているように感じます。

全体がリフィニッシュされている個体ですが、それでもトップのシトカスプルースは経年により味のある飴色に変化しており、ビンテージ個体らしい風格を感じます。

ブレーシングの構造が故に「軽いタッチで爆発的に鳴る」という印象は少ないですが、ある一定の力強いタッチで響きを与えてあげると、それまであった若干の重たさから解放されてとたんに大きく、力強く響く印象。まだPA機器やアコースティック用PUマイク等ほぼ無い当時、ギター1本で勝負してきた数々のギタープレイヤーが求めた、大音量でかき鳴らした時に真価を発揮するパワフルな響きを感じる個体。ストロークだけでなく単音でも弾き方次第で鳴り方が大きく変わる一本。弾きこなすためにはこの個体との対話のような時間が必要になるかと思いますが、ワンストロークで自然と惹きこまれあっという間に時間が経過してしまう魅力を持った個体です。

この個体については、ボディ内部のトップ裏側に鉛筆で「E Fries July 12,1946」のサインが記載されております。このことからこの個体は1946年から1948年までMartin社に所属していたElwood Fries氏が手掛けたものと思われます。当時Martin社内ではEmployee Guitarと呼ばれる従業員によるギター材やパーツの社内購入制度があったようで、仕入れ値でパーツを購入し従業員の好みのギターを自分の為に製作することが許されていたそうです。従業員が購入、製作した個体のトップ裏側には従業員のサインが鉛筆で記されており、他にも同様の個体の存在が確認されています。しかしながらEmployee GuitarにはヘッドにMartinロゴをつけることは許されていませんでした。

この個体はボディトップ裏にサインがあり、
ヘッドにオリジナルと思われるMartin ロゴがございます。

この矛盾とも思われる2点の事実を持ったこの個体が生まれた背景を担当スタッフが調査、推測してみました。あくまで最終的には推測の域を出ませんのであらかじめご了承下さい。

Elwood Fries氏は1946年の1月26日にMartin社で働き始め、1948年9月7日に退職の記録が残っているという情報がありました。また1946年当時D-28の製造本数が前年の倍近くに増えている影響もあり、Elwood Fries氏が自分の為に製作しようとしたD-28(もしくはその為に確保したD用トップ材)を急遽一般ラインに混ぜて製作・販売したものと推測します。1946年当時のビルダーが自分の為に真剣に選んだ材を使用した一本と思うとロマンと歴史の重み感じてしまいます。


【仕様】
トップ:シトカスプルース
ブレーシングパターン:リアシフトXブレーシング
（ノンスキャロップドブレーシング）
サイド・バック:ブラジリアンローズウッド
ヘッドプレート:ブラジリアンローズウッド
指板・ブリッジ:エボニー
スケール:25.4"(約645mm)
ナット幅:1 11/16"(42.9mm)

ハードケース付属