――兄が拾ってきたクラシックギター
小山氏とギターとの出合いは中学2年生。
エレキギターを弾いていたお兄さんの影響で「自分も!」と思っていた矢先、お兄さんが近所のゴミ集積所から拾ってきてくれた古びたクラシックギターが小山氏の「ファースト・ギター」となる。
ピアノを習っていたこともあり、左手でコード、右手でメロディを弾くという基本的な演奏のしかたは理解していたという。
その当時、どこの家にもあった歌本を見ながら片っ端からチャレンジした結果、この頃に好きだった尾崎豊の楽曲は全て演奏できるようになったと話す(笑)
高校進学後はクラス仲間と文化祭などでバンド演奏を披露する機会があり、ライブ活動の楽しさに触れる。
その後、実家のある東京を離れたいという気持ちと、繰り返し観た"上田正樹とサウス トゥ サウス"のライブビデオの影響で"西部講堂"に憧れ京都大学に進学。
大学時代は"拾得(じっとく)"や"磔磔(たくたく)"など、京都の若者文化の中心となったライブハウスに入りびたり、拾得でのオープンマイクにはオリジナル曲をもって参加。
一方、夏休みなどにはバックパッカーとなってカナダのユーコン川や中国シルクロードを巡り、見知らぬ国の人々や文化、音楽に直に触れ、また、現地で出会った各国のバックパッカーたちとの交流を大いに楽しんだ。
やがて卒業となるが就職はせずに西表島に渡り、ダイビング・ガイドとして沖縄の海と自然に囲まれて自由で穏やかな日々を過ごす。
そんな時間の中で「やはり自分が好きな音楽に関わる仕事がしたい」と思う気持ちが膨らんできたと話す。
東京に戻った後、縁あって都内の大手楽器店に就職。そこでMartinやGibsonなどの歴史的なギターをはじめ様々な楽器への知識が深まるにつれ、自らもJazzやボサノバ、ブルーグラスなど、様々な音楽に広くチャレンジしていくようになったという。
その結果、アーチトップやナイロン弦、ウクレレ、バンジョー、ドブロにフラットマンドリンと、手にする楽器の世界もどんどん広がり、益々アコースティックサウンドの魅力に浸かって行く。
――大きくTop落ちしたLG-2
『ラストギターをスタートして5年経った2018年、アメリカに買付けに行った際、1956年製のGibson LG-2を見つけたんです。』
J-45と並んで1942年に誕生した、ややコンパクトなボディとクラシックギターのような抱えやすい形状でブルースマンに人気のモデル。
全くのオリジナルコンディション!しかし残念ながらトップ板が大きく変形してしまっていて、このままでは弾くことは難しい。
『前から欲しいと思っていたギターでしたので、どうしても諦めることができず、購入して一旦日本に持ち帰ることにしたんです。』
その後、富山のギター製作家である辻四郎氏に相談してみたところ、快く引き受けてくださったとのことで再び素晴らしい音を手に入れ、現代に蘇った。
『修理にあたっては細かい注文は出さずに全て辻さんの解釈にお任せすることにしました。問題のTOP板もアディロンダックスプルースで張り替え、ブリッジも作りなおし、クルーソン3連ペグも交換してチューニングも正確に行えるようになりました。
その他の材は状態を生かしつつ、各部を細かく調整していただき、当時の雰囲気を残しながら現代のギターのようにしっかりと弾くことができるよう仕上げていただきました。』
蘇ったLG-2は軽く、弾きやすく、フィンガーや小音量で弾いても輪郭のある、乾いたヴィンテージ・サウンドを奏でる。
一度はギターとしての価値を失いはしたが、こうして現代にも通用する弾きやすさを持ったギターとして再び命を吹き返すことができた。
ヴィンテージギターを当時のままの姿で大切に使ってゆくことも大変価値のある事ではあるが、このような状態になったギターを再び生き返らせて、一生モノとして大切に弾いてゆくこともギターへの愛情をもった付き合い方なのではないか。
これこそが小山氏のギターとギター文化に対する深い想いであり、自身のギターショップ"ラストギター"の立ち上げの動機でもあると感じた。
――『ラストギター』一生モノのギターに出会える店に!


小山氏がこの店を立ちあげたのは2013年、ちょうど今年10年目を迎える。
15年勤務した都内の老舗大型楽器店を退職して後に、楽器店勤務時代には取り扱うことができなかった自分好みの楽器や、今回ご紹介いただいたLG-2のように、「自分が買い付けた楽器をもっとコストをかけてでも納得のゆく状態に仕上げて販売したい」という想いの実現に向けてのスタートであった。
『実は、オープンしたての頃、飾る楽器が少なくて、自分のお気に入りの1979年製のMartin D-35 を値段をつけずに飾っておいたところ、あるお客さんに、音がいいのでどうしても売って欲しいと頼み込まれたんです。』
悩みに悩んだ結果、そのギターはそのお客さんに売ることになったそうで、、、、
『あのギターも手に入れたその足で高田馬場の今井工房さんに持ち込み、全てをバラして組みなおしていただきました。ヴィンテージの古き良き材とサウンドを有しつつも現代に通用する弾きやすさを手に入れた思い入れのあるギターでした。』
10周年を迎える今年、2023年3月にはラストギター創業以来お取引のある20人の個人製作家の方々、さらにメーカー4社に10周年記念にふさわしいスペシャルギターを製作していただき、"10周年記念プレミアムギターショー"を開催されるそう。
小山氏のギターに対する「想い」は20周年に向けてまた新しい歩みを始める。
(掲載日:2023年2月6日)
ラストギター

〒166-0004 東京都杉並区阿佐谷南1-12-5 クリオ レミントンハウス阿佐ヶ谷104-A
TEL:03-6824-3897
営業時間:12:00-19:00
定休日:毎週水曜日
姉妹店 : UKULELE BIRD