――かぐや姫とマークⅡ
『中学2年の夏休みに叔母から譲り受けたヤマハのクラシックギターが初めてのギターでした。』 そう話すのは、石川県白山市「ポンポロプー」代表の島崎氏。
当時好きだった「南沙織」のレコードのライナーノーツを見て「ギターコード」を知り、初めて弾けるようになったのは「17才」。。ではなく「聖者の行進」だった(笑)
フォークグループ「南こうせつとかぐや姫」に憧れ、中学卒業の頃には、かぐや姫のほとんどの曲を弾き語りで演奏出来るようになっていたという。
高校に上がるとフォークソング熱はさらに上昇、同級生とフォークデュオ「マークⅡ」(拓郎?..笑)を結成すると地元でフォークコンサートを企画。1枚50円也の手作りチケットで多い時には200人以上も集めたのだとか。
この頃に買ったフォークギター「Morris W-20」は仏壇屋さんで売られていたと言うから、当時の北陸地方におけるギターの流通環境が偲ばれる。
――音楽漬けの闘病生活とステファン・グロスマン
『大学に入り、親に内緒のローンで「GUILD D-50」を手に入れ(笑)、充実したキャンパスライフを送り始めて1年目のこと、突然の病に襲われまして。。 休学して地元の病院で2年間の闘病生活。熱を上げていた音楽活動も全て中止となってしまいました。 でも、そんな僕を不憫に思ったのか、両親は音楽に関する事は何も言わずに支援してくれ、個室だった病室にはレコードプレーヤーやギターも持ち込むことが出来たんです。』
辛い入院生活を音楽で紛らわすような毎日であったが、そんな中、島崎氏は一人のギタリストに出会う。カントリーブルースやラグタイムギターのレジェンド「ステファン・グロスマン」だった。 『彼のフィンガースタイル奏法にのめり込んでいった僕はレコードを次から次へと買ってはコピーしまくり、気がつけばステファンが僕のギターヒーローとなっていました。』
――人生を変えた'77 Martin HD-28
それから1年以上が経過し、待ちに待った1週間の退院許可が出る。
早速、懇意にしていた金沢の楽器屋さんに顔を出すと「島崎君、凄いギターが入ったんだけど弾いてみる?」と1977製の「Martin HD-28」を出してきた。
20歳の島崎氏が初めて出会ったMartinギター!
低音のきれいな倍音や高音のクリアな響きに完全に虜になってしまった島崎氏だが、当時の価格は40万円!さすがに両親に買ってとは言えず、悶々とした日々を過ごすことになる。
『無事退院し、思い切ってHD-28の事を両親に話してみると、、、
「それはこれからのお前に必要なギターなのか?」と、父。
「必要だ」と答えると二つ返事で「わかった、買ってやる」と!
決して裕福な家庭だったとはいえないのに、あのHD-28を買うお金を出してくれるという。嬉しかったなぁ。 父から受け取った40万円を握りしめてすぐに楽器屋さんに走りました。』
『その後、復学すると同時に軽音学部に戻り、そのギターで音楽活動を再開。
翌年には後輩とユニットを結成し、ヤマハのポプコンで賞を獲ったり、ライブハウスでのパフォーマンスや、女子大の文化祭にと大忙し!(笑)
レコードも作ることになり、HD-28はレコーディングのメインギターとしても大活躍!
大病で棒に振った青春時代でしたが、Martin HD-28との出会いでその後の僕の人生が決まったように思います。』
――想いを叶える店「ポンポロプー♪」
大学を卒業し地元 石川県の大手楽器店に勤務。名物店長と呼ばれつつ30年、52歳となった2009年10月に、氏はこのお店を開店した。
打楽器の「ポン」弦楽器の「ポロン」ハーモニカの「プー」という楽器の出音をイメージした店名の通り、アコギ、ウクレレ、パーカッション全般、ハーモニカ、リコーダーなどに特化した商品構成。 楽器を買い、教室で学び、ホールでプロの生演奏を楽しみ、仕上げに自分の演奏を披露する。そんな音楽の楽しみ方を一貫して提供してくれるこのお店には、島崎氏の楽器、音楽に対する「想い」の全てがある。
開店当時、北陸初のMartinギターのプロショップとあって、多くのアコギファンが押し寄せた。
欲しいギターが沢山あり、店主の営業トークに背中を押され、気付くとギターを購入している。。という事で親しみを込めて「ポンポロプーは悪魔の館」「店主のトークは悪魔の囁き」などとSNSに書かれ、ついには高額ギターを購入したお客様の間で「ポンポロ被害者の会」なるものが。さらに数年後には「被害者の会の宴LIVE」が開催されたという(笑)。
その後、この「被害者の会」は、マーティンクラブジャパンのイベント「僕らのマーティン君」として全国のマーティンディーラーで開催されるようになり、ポンポロプーでも2015年10月に開催された。
――ギターヒーローが店にやってきた!
そんな島崎氏、このお店を開いたおかげでもうひとつの大きな夢がかなったと話す。
『ポンポロプーを開業して5年目のこと、ギタリストでTABギタースクール主宰の打田十紀夫氏が、なんと僕のギターヒーロー「ステファン・グロスマン」を招聘し、全国ツァーの企画をぶち上げたんです!
「島崎さん、ステファンを石川県に連れていこうと思いますがライブ受けていただけますか!?」との連絡に、断る理由があろうはずがありません!
ステファンが来る!ステファンに会える!あの辛かった闘病生活を支えてくれた僕のギターヒーローが僕の店にやってくる!こんな出来すぎたストーリーがあるでしょうか!?
彼は僕のHD-28を弾いてくれ、さらに、ライブ本番では一緒にセッションまでする機会を作ってくれたんです。今でもあの感動は忘れません。僕の人生の中でも最高ランクの出来事でした。』
学生時代に辛い入院生活を送った島崎氏であったが、その後に出会ったMartin HD-28という1本のギターが「楽器と音楽を生業とする人生」へと氏を大きく動かした。
お客様に親しみをこめて「悪魔の店主(?)」と呼ばれる今も、そしてこれからも、親愛なる「被害者」の方たちの「救世主」として、北陸の地で「ポンポロプー♪」と賑やかな音を奏で続ける。
(掲載日:2023年4月6日)