商品説明
菊池正義氏は1943年生まれ、ギター製作の師は、中出一門のもう一人の総帥である中出六太郎氏である。
工房の所在地であった埼玉県を中心に広く活躍された製作家で、80年代~90年代の現代ギター誌でも結構な頻度で紹介されてきた。
菊池正義ギターを一番多く取り扱いされてきたショップはおそらく「東京ミック」様と思う。
アンチ河野ギターの店として、ある意味では名を残した老舗の名店である。
菊地ギターは、独立当初から師が製作するギターの作風とは大きな違いを見せる。
比較的に重量があり、がっしりとした堅牢な作風で、邦人製作家の中でも際立った個性を見せる。
かなり前の現代ギター誌で、ホセ・ルイス・ロマニリョスであったと思うが、日本の製作家が作るギターをどう思うか…との問いに、「皆同じような音色で、あまり個性を感じない…云々。」とハッキリと言い切っておられた。
おそらくは日本の有名ブランドギターを何点か試された経験からくる言葉であろうが、正直なところ自分もそのように感じるときが少なからずある。
思うに、有名ブランドのギターというものは親方の力が絶大で、弟子が独立してもまだその影響力の下にあり、師と同系列の音になるのではないか、そのように感じる次第である。
師とは全く違う個性のギターを作る、この時代であればむしろレアなケースと思う。
毎度のことながら、音の印象を言葉にするのは難しい。
本器の音については、誰しもが無意識にクラシックギターに求める哀愁や情感を帯びながらも、同時に凛とした気品も匂い立つ。
そしてやや柔らかいテンション故か、タッチによる音色変化も多彩で、ビブラートも美しい。
弾き易さについては、12フレット弦高が6弦側4.0㎜、1弦側3.0㎜、の標準弦高ながら前述の柔らかいテンションでとても弾き易い。
またサドル残も3.0㎜程度あるので、更なる弦高調整も可能
使用材も贅沢なもので、木目が細かく少しベアクロウの浮き出たジャーマンスプルースの表面板、同じく木目が細かく真っ直ぐな「柾目取り」の側板&裏板、現在では超高級機種にしか見られない正真正銘のインディアンローズウッドになる、指板は真黒(マグロ)と呼ばれる滑らかな黒檀、糸巻きはおそらくはオリジナルではなく後藤製の上位機種に付け替え済み…等々で極上材が惜しげもなく使われている。
状態としては、側板の一部に塗装の擦れ、前オーナー様の押弦時の癖なのかネック裏に左親指の浅い爪痕(手触りがほんの少しざらつく)、そして年代相応の弾き傷&打痕…等々はあるが、割れ補修など重大なものは何もなく、油性ワニス塗装なのでウェザーチェックや白濁もない、全体としてはまずはキレイな状態にある。
最後に本器は、師である中出六太郎ギターとは大きく違うと申し上げたが、ただ1点のみ師匠譲りの部分がある。
本器のロゼッタは通常タイプの物ではなく、ローズウッドを同心円状に埋木してあり、丁寧な仕上げで、シンプルではあるが大変に美しい。
六太郎氏の最上位機種に見られる工夫である。
※画像5はベアクロウで白濁でも光源の写り込みでもない。