商品説明
クラシックギター愛好家の方で、戸村浩久のお名前をご存知の方は大変なマニアの方であろう。
本器は戸村浩久製作の11弦ギターになる。
11弦という、それはそれは特殊なギターを高度な技術で、最上の材を使い、まるでオールドバイオリンの名器を想起させるような上品で光沢のある塗装…等々でどれをとってもたぐいまれな名工の手になるギターであることは歴然としている。
ただ現在では、そのお名前は勿論のこと同氏のギターを中古市場で見掛けることはまずない。
元々はクラシックギター専門の製作家ではなく、リュート、テオルボ、等の古楽器を製作される方であり「JSIMA(日本弦楽器製作者協会)」の正会員であられたが、それは古楽器の制作者としての登録であった。
幸いにして「現代ギター80年1月号 特集日本のギターつくりたち」に、ご本人のインタビュー、製作コンセプト…等々が記載されているので、一部だがご紹介させていただく。
1943年千葉県に生まれ、日本三大名工のお一人である野辺正二氏のもとで修業。
自身の工房開設後は、クラシックギターはもちろん、リュートやテオルボ…等の製作も開始する。
その後はドイツに渡り、かの地ではカズオ・サトー(佐藤一夫)氏に古楽器作り全般を学ぶ。
戸村氏の作品は、最初の師匠であり江戸時代から連綿と続く「指物師」の流れをくむ野辺正二氏と同様に、華美な装飾に頼らない素材としての木目の美しさを生かしたものになる。
もう一つ戸村作品の特長は、古楽器作りから派生した塗装方法である。
オールドバイオリンにも使われた「グルンラック(油性ワニスの一種)」の塗装で、塗膜が柔らかく木材の収縮に従うので音に良い影響があるのはもちろん、塗膜自体が劣化に強く白濁やウェザーチェックは一切発生しない。
本器は製作後およそ半世紀近くになるが、この言葉通りに塗装の白濁やウェザーチェックは一切発生していない。
あたかもオールドバイオリンの歴史的な名品のごとく、渋く、まろやかな光沢を今だ維持している。
重複することになるが本器の状態については、弾き傷等は散見されるが目立つものはなく、塗装についても前述の如くになる。
もちろん割れ補修など重大なものは何もなく、全体的に見ても非常に健全な良い状態にある。
音については、11弦ギターの音色を言葉にするのは困難であるが、倍音が豊富で響きが豊かな音色は、やはり11弦ギターならではと思う。
本器の構造は他の11弦ギターとは違うところもあるので、出来るだけ詳細にご説明しておく。
本器の9弦・10弦・11弦は指板内にはなく中空にある。
これは盲目のギタリストであるアントニオ・ヒメネス・マンホンが使用したトーレスの11弦ギターやヌーニョスの11弦ギターと同じ方式になる。
※研究熱心なトーレスが生涯にわたり製作した11弦ギターは10本になると伝わる。
日本ではイョラン・セルシェルが登場して以来、愛器のゲオルグ・ボーリンの11弦ギターに 右へ倣え のギターが多いと思われる。
ただあの方式だとナット幅が90㎜前後になり、10弦ギターのナット幅(およそ85㎜前後か)より更に広くなる。
演奏する奏者の力量による違いはあると思うが、広いナット幅や指板幅については、多弦ギターを演奏する上で「最大の壁」になると思う。
ちなみに本器のナット幅は67㎜になり、幾分かはその「壁」が低くなると思われる。
また本器については、ボーリン、トーレス、ヌーニョス等の11弦ギターにはない工夫もされている。
それは「0フレット(ゼロフレット)方式」の採用になる。
クラシックギター愛好家の方々には殆ど馴染みがないと思うが、70年代中期の頃まで一部のアコギメーカーに採用されており、海外のクラシックギターでも数は極端に少ないが採用されていた方式になる。
※近々に当店に入荷するイタリア製の手工クラシックギター
ルイジ・モッツァーニのギターも0フレット仕様になる。
この方式では、1フレットや2フレットでのセーハやローポジションでの押弦が楽になるが、0フレットを指板に打ち込む際は指板の端にギリギリ近くなり、慎重にかつ高度な技術を要するので、現在に至るまであまり採用されてはいない。
0フレットの持つギターの押弦の感覚は、例えば「1フレッツトにカポタストを装着する」時の感覚に一番近いものだろう
本器は、古楽器作りの雄が豊富な経験をもとに、最上の材を使い、独自の工夫を加えた、まさにオンリーワンの得難い11弦ギターの名品である。
本器については、他の比較出来るギターが存在しないと思われるので、別途お問い合わせいただければ出来るだけご説明させていただく。
また本器に付属するハードケースは、戸村氏自身が製作されたと思しき、堅牢で年代の割には状態の良いものが付属する