商品説明
ラベルには、金田 JTN TIAN 2012 とある。 多分そうだろうと推測の域をでないが、製作家は、日系アジア人の方とお見受けする。 国籍については、ギター製作の実績面から判断すると、中国や韓国、台湾、あるいはベトナムあたりになるのであろうが、まるで違っているかも知れないし、アジア圏ではない可能性もある。 最初にお断り申し上げるが、アジア製のギター(量産品、手工品を問わず、日本人以外のアジア人が製作に関わっているギター)について、「…製だから悪い」、「…製の粗悪品」、というような印象を、どこかでお持ちではないだろうか。 事実、一部の通販やリサイクルショップなどで時折目にする、楽器というよりは玩具に近いもの、インレイなどの装飾面だけが派手で基本性能に欠けるもの等は論外としても、実際に目にするのは、楽器として、まあまあの及第品、あるいは国内大手メーカーのアジア各国でのOEMの中級品(とは言っても昨今では結構値段は高い)等で判断されているものと思う。 正直にいえば、自分自身も、ここ何年か前は、少なからず、そのような印象を持っていた。 数年前に当店で、Sinoman(シノマン)ギターの中古品を2本、同時期に取り扱いした事がある。 中国製の量産品で、ラティスブレーシング&アーチバックの、いわゆるスモールマン・タイプのギターであるが、音量・音質ともに素晴らしいもので、6万円弱の価格(当時の価格で、最新のものは値上がりしている)を考慮すれば、コストパフォーマンスは最高であった。 ただ残念なことに、2本とも、ナット&サドルに問題があり、少し調整が必要であった事も記憶しているが、これがもし完全な形で市場に流れれば、国内ハイクラスの量産品でも顔色なし、と思えるレベルであった。 J-Guitar様にアップしてから程なく、シノマンギターの輸入販売元である輝(Hikaru)カンパニーの柏尾様より、当方あてに御連絡を頂戴した。 当方の記事に事実誤認の個所があり、訂正個所を指摘いただいた事、シノマンギターとGuo Yulong(ガオ・ユーロン=中国の河野賢とも称される、中国を代表するギター製作家で、同氏の製作する、ラティス&アーチバックのギターやWトップのギターは、同種のギターでは世界で一番売れていると言われる。)の関係性や当代アジアのギター製作に関わる諸事情など、貴重な情報をいただき、あわせて当方の無知と不明を正していただいた。 日本には、あまり紹介されていないが(実際には、複数のブランド名で、すでに国内流通されているのだが、中国生産である事を明示していないブランドもある。)、ラティスブレーシングやWトップの構造を持つ先進タイプのクラシックギターは、量産品、手工品を問わず、かなりの量が生産されている。 試みに、アジアの通販の巨人「アリババ」で、ラティスやWトップ、スモールマン・タイプやダマン・タイプ等を検索ワードにクラシックギターを探せば、驚くほど多くの商品がヒットする。 中には、米ドル換算で、3,000~4,000ドル程度の価格帯の商品も多くあり、決して廉価だけをセールス・ポイントにしているわけではないのが理解できる。 かって日本のメーカーや製作家は、トーレス・ハウザー・フレタ・ラミレスなどを規範として製作の出発点としたが、現代アジアのメーカーや製作家は、ダマンやスモールマンを規範としているものと思う。 残念ながら、今現在でさえ、アジア製の玩具のようなギター、楽器としてギリギリ・セーフのようなギターを見かける事は多いが、ただそれだけがアジアのギター生産における実力ではないと思う。 どこの国で、誰が作ろうと、良いモノは良く、悪いモノは悪い。 ごく当たり前の原則だが、ことアジア製になると、負のイメージは完全に払拭できていない。 今回入荷した本器を見て、アジアは恐るべし、そのポテンシャルと熱意は、かって日本が欧米に追いつき追い越せの時代に、物づくりの根幹にあったものと同じだと感じた。 日本の愛好家の方が知らないところ、気付かないところで、アジアのギター作りは確実に進化している。 毎度の事ながら前置きが長くなり恐縮だが、本題に話を戻す。 本器は、現代の特殊な構造を持つ名器を規範として、独特な構造で、また高い工作精度で、そして一生懸命に製作された手工品の名品である。 製作者の出自を物語るような「日の丸」をシンボライズしたようなロゼッタがユニークだが、それでも外観はごくオーソドックスなもので、装飾も控えめ、現代の手工ギターとしては、むしろ地味な印象さえうける。 本器が突出して変わっている部分は表面板・力木の構造である。 分類としては一応ラティス・ブレーシングと言う事になるのだろうが、普通ラティスと言えば格子柄が密集したような形状で、その様が洋菓子の「ワッフル」に似ている事からワッフルバーとも呼ばれるのだが、本器のそれは完全な「楕円形」の集積である。 格子状のそれとは違い、はるかに技術も手間もかかる楕円形のラティスなど自分は初めて見た。 肝心の音については、ラティス特有の表面板の振動を、より容易にするというコンセプトのもと、音の立ち上がりが早く、豊かな音量を持っている。 従来のラティスは表面板の厚みをギリギリまで薄くしているのに対して、本器は表面板にしっかり厚みをもたせているので、シダートップでありながら、引き締まった音の密度と豊かな音色を実現しているように思う。 本器の仕様については、トップ/シダー、サイド&バック/ローズウッド、指板/縞黒檀、等のオール単板仕様。 また状態については、セラック特有の塗装のスレ、若干の弾き傷等はあるが、中古ギターとしては、まずまずの美観で、ネックは正常、指板&フレットにもあまり使用感は見られない。 最後に、本器については、現代アジアの刮目に値する名品と確信している。